常時一人②
午前の授業も終わり、昼食の時間だ。
誰もいない薄暗い校舎裏で、1人ご飯を食べながら朝の先生の話を思い出す。
部活への入部届の期限は来週いっぱいだと言っていた。
正直部活などやりたくないが、入部先を決めないと在校中ひたすらに忙殺される便利屋部へ入部になるらしい。
便利屋部ってなんだよ。と心で悪態をつきながら、なにか面倒ではなく適度に楽な部活はないか考える。
少し考えて出てくるくらいなら、もうとっくにそこに入部してるはずで、ないから困っているのだ。
「はあ~」
溜息を吐き、肩を落とす。
「そんな所に誰か居るのか?」
1人悩んでいると、突然声を掛けられる。
「誰かと思えば常時か。こんな所で1人飯か悲しいやつだな」
「教室に居ても奇異の視線を注がれるだけなんでね。ぼっちの方が落ち着くんですよ」
俺に話しかけてくるなんて誰かと思えば、学園長だった。
俺がここに来る羽目になったのも、元はといえばこの人が招待状なんて寄越したからで。
俺にとっては諸悪の根源たる人物だ。
「おいおい。そう睨むなよ。ところでお前部活は決めたのか?」
「睨みたくもなりますよ。あんたが軽い気持ちで俺を誘わなきゃこんな事にはならなかった」
「それは責任転嫁ってもんだぜ。ここに来たのはお前が決めてそうしたからだろ」
「正論なんて聞きたくないです。俺はただ、誰かにやつあたりしたいだけなんで」
「難儀なやつだな」
学園長は呆れたように俺を見る。
「おじさんに見つめられても、俺は嬉しくありませんよ」
「当たり前だろ。むしろ嬉しかったらひくわ!」
「それと質問の答えですけど、俺は部活決めてません。何か楽な所知りませんか」
「それを俺に聞くか。そんなものないと言いたい所だが、正直増えすぎた部活全てを把握しきれてないからな。生徒会にでも聞けばどうだ」
この無能が。
「嫌ですよ。あんなお高くとまった連中。この世全ては権力だ。とでも言いたいのかっての」
「お前だって似たようなもんじゃないの? Aクラスなのにぼっちで無能気取るとか、中二病ですか」
学園長はニヤニヤしながら、からかってくる。
「うるさいな。あんた知ってるでしょう。偶然の連鎖なんですよ」
「偶然とはいえ、結果を曲げた訳じゃないんだ。もうちょっと自信持てよな」
「うるさいな」
俺は目をそらし、ぽつりと呟く。
「全く、難儀なやつだな」
やれやれと呆れたように俺を見て、その場を去って行く学園長。
「それはそうと、部活。それなりの所には入れよな。俺にも面子ってのがある。俺が呼んだ生徒が底辺にいたんじゃ面子も丸つぶれってもんだろ」
ひらひらと手を振る学園長。
「勝手にしますから」
外面を気にする恥知らずが。そんな悪態を吐きながら、俺は残っていたご飯を一気にかき込んだ。
***
放課後、俺は特にする事もなく足早に寮に戻る。
寮は学園の敷地内にある為、徒歩5分くらいで着く。
近いのは良い事だ。なんて思いつつ寮の玄関をくぐる。
寮は4階建てで、1階は食堂などの共有スペース。2階から上は各学年毎の生徒が住んでいる。
2階は1年、3階は2年と言う具合だ。
俺は夕食を買おうと、共有スペースにあるコンビニに入る。
寮内にコンビニ? と俺は最初疑問に思った。
ちゃんとした成績さえ納めれば、実質無料で食事が出来る学食があるのだ。コンビニなんてせいぜい文房具を買うぐらいだろうと思っていたが、案外俺は重宝している。
というのも、いかんせん学食は込む。特に今の俺のような立場だと奇異の視線にさらされ続け居心地が悪い。
そして実を言うと、俺はただの一般生徒ではない。
偶然とはいえ、学園長から直々に招待され、振り分け試験では教官に勝つなんて偉業を成してしまったのだ。
そのせいで、俺は特待生という扱いになっている。
今までの学校生活を鑑みると、肩身の狭さしかない扱いだが、寮内では別だ。
なによりコンビニでもほぼ金を払わずに買い物出来る特典がある。
これのおかげで、俺はコンビニでご飯を買い、1人部屋で悠々と食事出来るのだ。
特待生の特典としてもう1つ大きいのが、部屋が1人部屋だという事。
しかも広いうえに、ベッド、冷蔵庫、電子レンジなど一通りのものは揃っている。
ビバ特待生! 今のクラスでの状況を考えると、近いうちに俺、引きこもりになるのでは?
なんて考えつつ、そそくさとご飯を買って、部屋に戻る。
部屋に居ても何もやることもなく、ご飯を食べ終えた後は、ベッドに横になり少し考え事。
さっきはビバなんて思ったが、特待生という事は、当然それなりの成績も必要になる訳で。
無能にずっと好待遇をしてくれる程世界は甘くない。
むしろ、いっそこのまま引きこもって学園を追い出された方がいいのでは?
いやいや、このまま引きこもれば、便利屋部で忙殺される未来が待つだけだ。
退学するのならもっと穏便にやらないと。
「はあ~」
気がつくと、溜息が零れる。今日何度目だよ。自分で自分に突っ込みながら、纏まらない思考を巡らせ続ける。
ここではない別の学校に行っていれば、こんなに悩まずにすんだのかな。
いや、この贈り物を授かった以上、何処に居ても似たようなものだろう。
どうせなら、空を飛べるとか、瞬間移動とかもっと便利な贈り物を授かりたかった。
『なんだよ。つれないこと言うなよ』
『別にお前に文句を言ってる訳じゃない』
そう、別にビートが悪い訳じゃない。
『お前と出会えた事だけは、少し感謝すらしてるんだぜ』
『嬉しい事言ってくれるね』
『まあな。ビートがいてくれると、俺は本当の意味で孤独にはならないからな』
『じゃあなんで一人はそんなにイライラしてるんだ?』
『なんでって』
そんなの理由は簡単で。
この世全てが、儘ならないから。
こんにちは、ソムクです。
こんな文章を読んでくれたあなたに最大の感謝を。