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冒険者シャルドネ 対 転移者テツヤ

「な、何をバカな事を言っているんですか!」


 正気ですか! いや、正気を失いますよ!


「何をさっきから話している。耳障りだ!」

「てえい!」


 テツヤがシャルドネに攻撃をしました。両手で防ぐも少し押されています。


「今だけで良いの! 早く!」

「くっ!『心情偽装』!」


 確かに『心情偽装』でシャルドネの精神をごまかせば勝てるかもしれません。しかしそれなりに負担も大きいです。

 長時間はできません!


「ふふ、久々に本当の『無』って感じね。てええええい!」

「むう?」


 強い打撃がテツヤの拳に当たりました。シャルドネの手からは若干の血がにじみ出ています。


「フーリエ、魔力お願い!」


 テツヤと交戦しながらも、フーリエに指示を出します。何か作戦があるのでしょうか。


「んじぇ! 他の人間も攻めてきたんじぇ!」

「んがー。本調子でないけど戦うんじぇ!『土槍』!」」


 ノーム達は他の人間と戦っています。


「そんなにこの『ネクロノミコン』が必要なのですか? 貴方の頭の中に全て入っているでしょう!」

「ええ、ワタクシは賢いですから。ですが、魔術書は記憶にあるだけでは価値がありません。物があるからこそ、脅威となるのですよ!」

「レイジ、貴方って人は!『投石』!」

「無駄ですよ。『土壁』」


 レイジがボクの得意とする精霊術を使ってきました。何か嫌です!


 一方でシャルドネの方はフーリエと一緒にテツヤと交戦中です。


「てええい!」

「はあああ!」


 互角。そうとしか言えません。しかしフーリエが近くにいる所為もあって、守りが多い気がします。


「これならどうだ! シャルドネええ!」


 先程までの強打とは異なり、パスッという軽い音が鳴り響いた軽い一撃。

 しかし、その瞬間でした。


「な、がああああ!」


 シャルドネが左手を押さえました。何やら激痛が走った感じです。軽い一撃に見えて、実は強力な一撃だったのでしょう。やはりテツヤは強いです。


「しゃ、シャルドネ様!」

「フーリエは、良いから、魔力!」

「は、はい!」


 左手をぶらぶらさせながらテツヤと戦う姿は、もう見ていられません。


「シャルドネ! 変わります!」


「ゴルドは来ないで! これは……これは私の戦いなのよ!」


 魔術ではなく、何かしらの力は無いはずの『言葉』で止められました。

 シャルドネは左手をブラブラしながらも右手と両足だけでテツヤの攻撃を防いでいます。


「ふふふ、これは勝負ありと言った所でしょう。『姫』もあきらめが悪いのか、それとも師匠とやらに殺されるのが本望なのか」

「そんなことは……」

「だってそうでしょう。貴様が手を貸せば、聖術でテツヤを殺せるのですよ? しかしそれをさせない。つまり『姫』は自害を望んでいるのですよ!」


 そんなわけがありません。

 シャルドネは心が壊れていても、決して生きる事だけはやめませんでした。

 旅に出て、色々な物を見て、心を戻す。それは決して墓場を探していたわけではないはずです!


「ボクの仲間はそれほど心が弱くありませんよ!『投石』!」

「無駄だと言っているのに。『土壁』」


 またしても防がれます。

 何か良い方法があれば……その時でした。


「んじぇ! あいつから変な魔力が出てくるんじぇ! 離れるんじぇ!」

「んぼー! 回避んじぇー!」


 ノームが叫んだ瞬間でした。


「が、ぐ、があああああああああ!」


 一人の人間が大きく叫び、そしてその場で倒れました。見た感じでは急に倒れたようにしか見えないのですが……。


「魔力が破裂したんじぇ!」

「許容量超えたんだじぇ!」


 そこでふと思い出しました。この地に人間が入った場合、魔力を放出できないと許容量を超えてしまい、最後は命を落とすほど危険な場所だと。


「う、うがあああああああああ!」

「があああああ!」

「うおおおおおおお!」


 次々に叫んでは倒れる人間達にレイジは少し驚きます。


「なっ、何が……なるほど、この地は魔力に満ち溢れているのですか。予定外……まさか!」


 ボクもレイジと同じタイミングで気が付きました。

 シャルドネがずっと守りに徹していて、フーリエをずっと近くで戦わせた理由が。

 シャルドネにかけた心情偽装は『心を壊して肉体を強化する』ものだと思っていました。ですが違います。


 シャルドネが唯一テツヤに勝てる方法を悟られないために『心情偽装』を使わせたんです。


「シャルドネ! それだとテツヤは!」

「なんの事かしら! 今は心が壊れていて何も考えていないけど!」

「正気ですか! そのままだとテツヤは死んでしまいますよ!」


「正気のわけないでしょ!」


 シャルドネの目にはいつの間にか涙が垂れていました。


「拳の突き方、足の動き。全て師匠とそっくり。でも、どこか力任せな部分がある。動きを大切にする師匠は絶対にこんな雑な動きはしないわ。つまり……もう目の前の男は師匠の姿をした悪魔なのよ!」


 シャルドネの渾身の突きがテツヤに入りました。一歩、いえ、二歩後ろに下がり、テツヤは少し苦しみます。


「ぐう、シャルドネ……お前の事はこの男の記憶から読み取り知っている。随分と可愛がられていたそうだな」

「うるさい! 師匠の声を使って呼ばないでくれるかしら! てえい!」


 二発。三発と、打撃をさらに加えます。


「それに、師匠だったらレイジが家に来ても、自分の身は守れたと思うのよ」

「何?」

「セイラは教えてくれたわ。師匠はこれから『二人』を養っていかないとって意気込んでたって」


 二人……まさかセイラのお腹には新たな命があるのですか?


「師匠の不始末は弟子が取る。そう教えられたから。だから私はここで師匠を……倒す!」


 その瞬間でした。テツヤから大声が発せられました。



「『その通りだ! シャルドネええええ! 俺を……俺を刺せえええええ!』」



 着ていた上着を破り、その場でテツヤの動きが止まりました。


「なっ! 貴様、まだ」

「『早くしろおおお! シャルドネえええ!』」


 口だけ動くテツヤ。そして風の如くシャルドネは腰のダガーを抜き取り。


 テツヤの腹部に刺しました。


「が……がああああ!」


 苦しむテツヤ。その叫び声は『音叉』にも反響し、響き渡ります。


 そして、テツヤはその場で。


 息絶えました。

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