予想外の状況
ボク達を中心に、たくさんの白い丸い物体が囲っています。
全員が頭を下げていて、色とりどりの三角帽子が目を刺激します。
先程までエラそうだった大ノームはというと。
「……もう、悪い事はしませんじぇ」
そう言って、頭の部分の球体と胴体部分の球体の中心には『オイラ含めノーム達は、シャルドネ様達に失礼な行為を行いました』と書かれてある看板がさげられていました。
まさかフーリエの教育第一弾がさっそく精霊のノームに使われることになるとは思わなかったです。
同じ精霊として、少し複雑ですね。
「悔しいんじぇ。『原初の神より生まれし精霊』でも、やはり直系には負けるんじぇ」
「その、『原初~』というのは何ですか?」
ボクの疑問に小さくなった大ノームが答えました。
「世界創生の始点。簡単な言葉を使うなら、無から生まれた属性んぼ」
「無から……」
「ゴルド様。ワタチもそのお話は聞いたことがあります」
流石は雪の地の魔術研究所から来たフーリエですね。とりあえず頭を撫でておきましょう。
「無から生まれたものはいくつかあるんじぇ。時間、音、光、鉱石、そして神んぼ。これらは原初の属性とも言われていて、とても高貴な属性なんじぇ」
そう言われると、ボクってすごい属性なんですか!
「だから、その鉱石の神から生まれたオイラ達は、すごく誇りがあるんじぇ。人間の魔術や他の精霊の精霊術には負けたく無いんぼ」
意地というか自信というか、そういう思想がノーム達にあったから変に高飛車だったわけですね。
「もうゴルド様とは対立しませんじぇ。どうか許してほしいんぼ!」
「なにとぞー!」
「なにとぞー!」
一斉にボク達に放たれた声の所為で、地面が少し揺れています。にしても……。
やたら態度が一変してますね。
通用するかわかりませんが、相手の心を読む『心情読破』でも使ってみますか。
「ど、どうかお願いんじぇ! (魔力を返して欲しいんぼ! あの悪魔がいなければ絶対に勝てたんじぇ!)」
「……」
「……」
じっと大ノームを見るボクに、何かを察したのか額に汗をかき始めました。
「フーリエ、今魔力を返すとどうなるのですか?」
「そうですね。激しい腰痛と手足の痺れからは逃げられないでしょう。それと若干胃もたれもしているのでそれが」
「このままの姿がいいんじぇ! 超気に入ったんじぇ!」
なるほど。対精霊には悪魔が有効とは言われましたが、精霊と精霊が相対するときは悪魔を連れて来れば有利になりますね。
今後の為にも覚えておきましょう。
「それはそうと、カンパネから何か受け取っていませんか?」
「か、カンパネ様……ですか?」
あれ? 何か言葉が詰まったような。ここは『心情読……。
「待ってんぼ! あるんじぇ! あるんじぇが……」
慌てる小さな大ノーム。一体何があるのでしょう。
☆
「おお……これはすごい結界ですね」
ノームの集落の一番奥に、小さな小屋がありました。
そこにはカンパネがノームに渡したという神術の書物が眠ってると言われていますが……。
「凄い結界ですね。ワタチはここから先に進めば消えてしまいます」
「ボクもこの先を進むと消滅しますね」
「オイラ達も書物は預かったものの、この結界の所為で一度も読んだことはないんじぇ」
そして期待の眼差しはシャルドネに向けられます。
「……嫌よ? そんな事言われた後に取りに行くなんて」
「いやほら、シャルドネ、強いですし」
「シャルドネ様は最強ですので」
「ノーム百体よりはこの結界を歩く方が楽だんじぇ」
「じゃあノーム百体で突っ込みなさい。できなければ私の拳が飛ぶわよ?」
ざざっと後ろのノームたちが怯えました。いや、本当にシャルドネの言葉には心がこもっていないから、凄く怖いのですよ。
「言ったでしょ。意味不明な物は無理なのよ。その……原初の何とかーってやつも良くわからないし」
「ふむ、万策尽きた感じです」
せめてこのバリバリ言ってる結界を抑えれれば良いのですが……。
そこでふとフーリエと目が合いました。
そういえばフーリエ(本物)とは記憶が共有されているのですよね?
「フーリエ、ボクのお願いを聞いてくれますか?」
「な! 頑張ります! 何でしょう!」
「フーリエをここへ連れてきてください」




