錬金術師ゴルド誕生
怪しいおじさんから船を奪……借りて、とりあえず島を出る事に方針を固めたボクたちだけど、困ったことが一つありました。
「ひっ、こ、殺さないで……」
小さな女の子が箱の中に入っていたのです。
服装は薄汚い布を何とか縫い繋いで作り上げた服とも呼べない衣類をまとい、おそらく食事や日光、適度な運動をしていれば美しいと予想される赤い髪を肩まで伸ばしていました。
「ちなみに衣服に関してはゴルドと良い勝負だと思うのは私だけかな?」
「うーん、船の中に衣類になる物が無いか探してみるよ」
そう言ってボクは小舟の小さな倉庫を漁ってみます。
盗品だとは思いますが、僅かですが衣服と食糧、そして酒が入っていました。
「服ありました」
「じゃあ一着この子に渡してあげて。私は船に問題が無いか確認するわ」
「う、うん」
服といっても男物の族の服で、青いバンダナと少し廃れたシャツに半ズボンです。まあ今の布よりはマシでしょう。
服を渡そうにも、小さな女の子は今も怯え震えていました。
シャルドネの言ったことに対しては反論したいけど、この女の子も容姿だけを見ると僕と年齢は変わらないように見えていると思うんですが。
「えっと、ボクはゴルドです。えっと……魔術を少し使えます」
「ひっ」
まだ少し怯えていますね。どうすれば良いのでしょう。
そう悩んでいると、少し前の光景を思い出す。
シャルドネに金を手から出して、少し驚かせた光景だ。
つまり、怖くは無い。そして敵意もない事を示せば良いのです。
地面に右手をつき、周囲の『ある物質』を探しだし、それだけを吸い出す。そして左手を握りしめ、力を込めます。
「ひっ! こ、殺さないで……」
光り輝いた左手に驚いたのか、再度怯える。
「大丈夫です。ボクは敵ではありません。その証として、これをプレゼントします」
手から出したのは、純金の綺麗な玉。これほど純度の高い金はこの世にあまり存在しないでしょう。
「き、綺麗……」
少女がつぶやき、ボクがそっと少女に渡します。
「あなたは……錬金術師なの?」
「錬金術?」
とある人間の世界では、水から別の物質へ変えたり、金を生成したといわれている人間の事を錬金術師と言われていました。
まさかこの世界でもその言葉が?
「あー、うん。そうなんだ。でもこのことは内緒ですよ?」
「うん!」
ぎこちないながらもほほ笑む少女。少しは安心したのでしょうか。
ボクの渡した金を大事そうに持ち、深呼吸をしました。どうやら今まで怯えていた分落ち着くことができなかったのでしょう。
「さて、まずは服を着替えましょう」
「ひゃ、え、服?」
「はい。この服に着替えた方が良いです。寒いですよね?」
「う、うん……えっと」
どうしたのだろう。服を受け取った後微動だにしません。
もしかして実は今着ている布は大事なもので、着替えるのが嫌なのでしょうか。だとしたら無理やり着替えさせるのもどうかとは思うけどここは離島ですし潮風って地味に寒いと思うのですボクは精霊だから温度は感じませんがだけど「ぅおおおおばかさああああん!」このままだと風邪を
「ぐああああ!」
ボクの反応をはるかに超えた強い一撃がボクの腹部に直撃した。
「彼女。女の子。あなた。男。わかった?」
「……りょうかいです」
人間の羞恥をまだ理解できていませんでした。
というわけで、少し離れた場所で着替えて(ボクはどこでもよかったのだけど、シャルドネに再度殴られそうだったので移動し)小舟に戻った。
「船の状態は良好。このまま帆を上げて今の風向きだったら無事に大陸の雪の地へ行けるわ」
「雪の地!」
どうやら地名も無いらしいです。
国などの仕切りも無い以上、その土地の特徴がそのまま名前になっているのでしょう。ここも離島と呼ばれていますし。
「あら、あなたは雪の地を知っているの?」
「うん。ミルダは雪の地で生まれたの!」
「ミルダって言うのね」
「あ、ごめんなさい。ミルダはミルダって言います。遅れましたが助けてくれてありがとう」
「いいのよ。これも縁よ。私はシャルドネ。こっちのちっこい錬金術師はゴルドよ」
「聞こえてましたか」
「当然よ」
やはりシャルドネは人間としてのリミッターを解除している気がします。聴覚まで鍛えられているとは思わなかったです。
「よろしくお願いします。シャルドネちゃん。ゴルドくん」
「はい。よろしくお願いします。では早速出航としましょう。最初の目的地は雪の地ですね!」
そう言って、ボク、シャルドネ、ミルダは船に乗り、新たな旅へと向かいました。
長くなりましたが、タイトル回収回となります。そして序章が終わり、次回から一章へと区分けしております。ご覧いただいた方、温かいメッセージをくださった方々、応援ありがとうございます!
今後もお付き合い、よろしくおねがいします!




