それぞれが選んだ道
ガランにトドメを刺した後、次はレイジと思いましたがその姿は無く、残っていたのはレイジの血と、壁の凹みだけでした。
逃げられた……そうとしか思えませんが、四人中一人も欠けることが無い状態をまずは喜びましょう。
そして……。
「罪深き闇の光よ、その暗き輝きをその場から消し去り~」
さて、今ボクは何をされているでしょうか?
正解は『頭痛と口内炎の治療』です。
「ふう、終わりました。どうですか?」
「まだ少し舌がしびれますが、大丈夫です。ありがとうございます」
「いえ、ゴルド様のお役にたてたのであれば、ワタチとしても本望です!」
「やっぱり錬金術師さんはフーリエに随分と懐かれているわね」
「そうですか? 別に普通ですよ」
とりあえずフーリエの頭を撫でておきます。
「えへへ、はっ! ち、違いますマリー様! ゴルド様をとても尊敬していまして!」
「はいはい、とりあえず錬金術師さんはド天然という事も理解したから、良しとするわね」
また心を読んだのでしょうね。まったくマリーは。
タプルのいる村へ戻り、シャルドネ以外はタプルの家に行き報告が終わった後、シャルドネの家で治療をしていました。
フーリエの腹部の損傷はなかなか酷かったので、そちらを優先に治癒魔術で応急処置をして、あとは薬草を塗って包帯を巻いて完成です。
ボクの頭痛と口内炎は、フーリエからの悪魔の魔力なので、聖術で治す以外方法は無いのです。
「闇の魔術……というか、悪魔に関する術と聖術の両方使えるのは、この大陸だとフーリエだけですか?」
「そうですね。ワタチの知る限りでは」
やはりシャルドネの周囲はすごい人ばかりですね。魔術関連の情報収集に終わりが見えません。
「それにしても、まさかシャルドネが一度死んで、それをセイラが蘇生してたなんてね」
「まるで物語ですね。父は娘を失ったことで心を失い、そのままどこかへ行ってしまった。娘は母を失ったことで心を失い、どこかへ旅に出て行った。まるで似た運命を辿ってます」
「親子ね。もう少しガランがその場で留まって、シャルドネの蘇生に立ち会っていれば、こんな親子の争いなんてなかったと思うわ」
そしてセイラが闇の魔術の『蘇生』を使った所も衝撃ですね。
「『蘇生』の欠点は寿命が短くなると言ってましたが、どれくらいなのですか?」
フーリエが顎に手を添えて考えながら答えます。
「そうですね、人によってはその日その時。場合によっては数年、数十年後とされています」
「随分とあいまいですね、それだったら別に『蘇生』の欠点ってそれほど重要では無いのでは?」
「それは違いますと強く言えます。というのも、『蘇生』を使った時点でその人の死は確定するのです。それも、ただの衰弱での死では無く、苦しみが伴う死の運命が定まるのです」
それは……恐ろしいですね。
「そして、使用者が同族で恋人となった場合、運命は伝染します。つまり、セイラと結婚できるエルフはいなくなったのです」
「なるほど、それで森の地のエルフの集落には住んでいなくて、この村にいるのですね」
伝染についてはさらっと聞いてましたが、やはりしっかりと事情を聞くと、少しかわいそうに思えますね。
「何故『蘇生』を使ったのか。それも聞くのはやめましょう」
「そうですね。特にマリーは声にも出さないでくださいね」
「善処するわ」
まあボクも『心情読破』で聞き出せますが、ここは自重しますとも。マリーの愉快な仲間なんて言われたら精霊の名が泣きますからね。
「何よ、マリーの愉快な仲間って」
ほら、すーぐ心を読む。
そんな事を思っていたら、扉が開きました。そこには、目の周りを真っ赤にしたシャルドネの姿がありました。
☆
ガランの一件も落ち着き、昨日はマリーの送別会を行い、そしてマリーが帰還する時間がやってきました。
「もう、フーリエ、それ以上泣かれると服が重くなるのだけれど」
「ですがあああ! ですがあああ!」
最初から決めていた事とはいえ、やはり寂しいのでしょう。
「ううう、マリー様ああ」
「もう、ありがとう、フーリエ。貴女のような優秀な部下を持てて良かったわ」
「あああああ」
もう、何を言っているかわかりません。泣き叫ぶフーリエをセイラが抱きしめます。
「マリー。帰っても気を付けてね」
「セイラ。ここに来たときは世話になったわ。ありがとう」
フーリエをなだめつつも握手を交わすセイラとマリー。
そして隣のテツヤは。
「すまない」
「謝らなくて良いのよ。それぞれの道よ」
「ありがとう。妹に会えたらよろしくな」
「ええ」
そしてテツヤと握手をしました。
「シャルドネ。こっちに来たばかりの頃から世話になったわ。本当にありがとう」
「いいのよ。こっちこそ、色々ありがとう」
珍しくシャルドネも少し声が震えています。別れが寂しいのでしょう。
そしてボクの番ですね。
「……錬金術師さんとはまた会える気がするわね」
「では最低でも千年は生きてください」
全然湿っぽく無いです!
何ですかこの別れの挨拶は!
「ふふ、冗談よ。でも錬金術師さんにはこう言っておくわ。『また会いましょう』」
「はあ、どこまでが冗談かわかりませんが、了解しました。では」
そう言って握手を……。
――『ネクロノミコン』だけでは絶対に神に勝てないわ。もっと知識を付けることね――
「……善処します」
「それでいいわ」
そして手を放しました。
「さて、悪いけど錬金術師さん、このページをワタクシに見せながら下がってくれる?」
「わかりました」
そして、マリーは呪文を唱えます。聞き覚えの無い単語が並び、やがてマリーの周囲は強い光に覆われます。
「マリーさまああ!」
「いつまでも泣き虫だと、良い女にはなれないわよ?」
最初は余裕そうに話していた言葉も、やがて震え始めていました。
「ふふ、ワタクシが泣くなんてね。そして泣いてくれる人がいるなんてね」
「マリー」
「ありがとう皆。元気でね!」
そして『パシュ!』という音を立てて、マリーはその場から消えていなくなりました。
雪の地の魔術研究所管理者のマリーは、この世界からいなくなりました。。
補足として、似たサブタイトルがありますが、四字熟語で例えるなら「有言実行」で、前話の「それぞれの歩む道」は「有言」の部分で、今回は「実行」となります。




