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二人の実力

「島を出るわよ!」


 もちろん大声を出して話し出したのはボクではありません。シャルドネです。


「そうですね……」

「整地作業も終わったし、次の目的地は北! 寒いけど何とかなるみたいだし、行くわよ!」

「そりゃ、そうなのですが……」


 さて、問題です。

 ボクは今どこにいるでしょうか。


 正解は、離島と呼ばれる島の北の端っこ。つまり海が目の前に広がっています。


「勢いは大事だと思いますが、この海を渡る術が無いんじゃ……」

「……」

 

 シャルドネは黙りました。そして再度。


「島を出るわよ!」


 同じ言葉を繰り返す。

 最初、シャルドネの心境や精神状態を疑ったけど、何度か繰り返すうちに一つの可能性が頭に浮かびました。


「もしかして、ボクの精霊術を頼りにしてますか?」

「そそそそそんなわけないじゃない!」


 図星だったそうです。


「無理です。ボクは鉱石の精霊。多少の魔術や神術は使えますが、水の入らない船を作るほど魔力はありません」

「精霊なのに!」

「精霊を神と勘違いしてません?」

「人間から見たら、近い存在だと思ってるけど」


 精霊の僕からしたら神と精霊はかなり違います。でも人間視点だと考え方が異なるのでしょうか。今度じっくり聞いてみたいものです。


「とはいえ、さっきも言いましたが、さすがに船一つ作るほどの魔力は残っていません。シャルドネがここへはどうやって来たのですか?」

「小舟を買って来たのだけれど、ここへ来た直後に盗まれてしまったのよ。だから精霊であるあなたに期待したのだけれど」

「修繕くらいならできますが、基がないとどうしようもないですね」


 修繕と言っても、穴を埋める程度で、本格的な修理はできません。素人の応急処置程度です。


「……私たちの旅は、どうやらここで終わりの様ね」

「あきらめが早いです! ちょっとは考えてください!」


 急に眼を細めて、海を眺めるシャルドネ。いやいや、何勝手に終わらせようとしているんですか。


「というのは冗談。よく見たらあっちの砂浜に小舟があって、人もいるわね。同業者(ぼうけんしゃ)かもしれないし、北にまでは行けなくても大陸へ行けないか聞いてみましょう」

「最初からそういう案を出してほしいです」


 人の気配は知っていました。てっきり気が付いていないのかと思ってましたが、そうでもなかったみたいです。

 多少の魔力は体内にあるものの、シャルドネ自身は魔術を使う事ができないらしく、魔力感知や神術の類は使えないそうです。

 てっきり肉の話の際にした毒感知等の探知魔術は不得意だと思っていましたが、警戒もあってかああいった言い回しをしたのでしょうか。


 とはいえ、不思議なのがそういった魔力探知を持たずして、どうやって人間の気配を察したのでしょう。あと鳥を仕留めた際の動きも素早く、とても人間の動きとも思えませんでした。


「じろじろ見て、どうしたの?」

「いえ、シャルドネは人間ですか?」

「なんか酷くない!」

「あ、その、違うんです。ボクの知っている人間よりも身体能力に長けているので、精霊や神、人間以外の存在なのかと思いまして」


 ボクの知識はあくまで神々の住む世界から見下ろして見ただけの知識です。今後言葉には少し気を付けた方が良いかもしれませんね。


「んー、確かにこの世界には魔術が使える人間と使えない人間。それ以外だと伝承で妖精とか悪魔とかの種類はあるかもしれないけど、私は魔術が使えないただの人間よ?」

「そうなのですか」


 となると、体内にある微量な魔力は誰しもが持っているもので、だからといって魔術が使えるとも限らないのでしょう。これは勉強になりました。


 そんな話をしているうちに、砂浜にある船に到着。

 船にはひげを生やした男が三人。何やら海辺で火を起こそうとしていました。


「初めましてー。ちょっといいですか?」

「ああ、なんだい?」


 優しそうにほほ笑むおじさん。

 三人とも笑顔でボク達を見る。


「私はこの世界を旅している冒険者……と仲間なんだけど、この離島に到着後に船を盗まれてしまったの。良かったら帰るときに一緒に乗せてもらえないかしら?」

「ああ、構わないさ。なあ皆」

「おうよ」

「おう!」


 三人のおじさんは笑顔で答える。


「これから飯を食べる所だったんだ。一緒にどうだ?」


 そう言って一人のおじさんはボク達の右後ろへ。


「魚が釣れたんだ。これから焼こうとしてたんだ」


 そう言って一人のおじさんはボク達の左後ろへ。


「わー。そうなんですか。ところで」


 そう言ってシャルドネは質問する。


「船の中の箱。なんで子供が入っているんですか?


 その瞬間、ボクは地面に手をつき、右後ろと左後ろに砂の壁を生成する。

 砂の壁は太く、二人のおじさんはその壁から手と顔だけ出した状態で埋まっていた。

 勢いよく砂の壁を生成したからか、少し砂埃が舞っています。


「あはは、良いアシストだね」

「シャルドネこそ、よくあの箱の中に人間がいるってわかりましたね」

「そりゃ、気配で?」


 疑問形なのが気になるが、それはひとまず置いておきましょう。必要なのはシャルドネの質問に対する回答でした。


「お、おいおい。何の話だ。それに酷いじゃないか。おじさん達を砂で閉じ込めるなんて」

「だ、出してくれよー」

「動けねえ」


 砂の壁から顔と腕を出した状態のおじさん。なかなかに滑稽です。


「砂の壁はおじさんの前に出しました。おじさんが『まるで襲い掛かる勢い』で近づかない限りは、砂に埋まる事は無かったのですけど」

「はは、そう言われてもな」

「ま、まじで動けねえ。なんだこれは」

「おい、は、早く……早く出せよ!」


 徐々に声色が低くなる。冷静か、もしくは演技が解けているのでしょう。


「へへ、さすがに冗談じゃ済まねえぜ。悪いお嬢ちゃん達にはしつけをしないとな」

「わー、さすがに私、まだ若いよ?」

「んなもん、売りさばけば関係ねえよ!」


 ようやく本性が出たと言った所でしょう。

 奴隷を扱う、もしくは人さらいの分類でしょうか。まさかこの世界ではそういう事があるとは思いませんでした。


「ん、シャルドネ。手にナイフを隠しているよ」

「関係ないよ」

「でも気を付けた方が」


 注意を促す。

 しかし、その注意は無意味だと後に理解しました。

 なぜなら、


「い、いつの間に……ぐ、がはぁ」


 シャルドネの前に立っていたおじさんは、膝をついて、地面に顔を付けていた。


「リーダー! おい、何をした!」

「え、殴っただけよ?」

「バカな、見えなかったぞ!」


 そう、素人には見えない早さでしょう。

 精霊だからこそ僕には見えたのでしょう。

 地面は砂浜。ただでさえ足がとられる場所で砂埃を出さずに接近。そして腹部に強打。本当に強いと感じました。


「さて、ゴルド。君はその二人のおじさんに、どのようなお仕置きをするのかな? まさか私と同じで、強い打撃で終わりじゃないよね?」


 すごく期待されています。うわーどうしましょう。


「お、おい、やめろ。死にたくは……死にたくはない!」


 あ、ひらめきました。


「痛いのは嫌ですね?」

「ああ、勘弁してくれ。船はやる。その子供も渡す。だから見逃してくれ!」

「痛いのは?」

「だから勘弁してくれ! 殺さないでくれ!」

「わかった。じゃあ痛いのはやめてあげます」

「あ、ありがとう『お嬢ちゃん』」


 いらっ。

 

「この砂の壁ですが、実は形を自在に変える事ができます。それを利用しておじさんの右腕を左右に動かすこともできます」


 そういって、砂の壁から突き出た右腕を少しだけ動かす。


「つまり、この砂を自由自在に動かすことができるということです」

「お、おう」

「この砂の壁、おじさんに接している部分だけを自在に操る事もできます」

「え、あ、お、おい! や、ははは、やめろ、はっは」

「おい、何を……くくく、はは」

「痛いのはボクも苦手です。だから」


「このままずっと、くすぐり続けてあげましょう」


 -名もなき離島の伝説-

 ある日一人の釣り人がいました。

 海沿いを歩いていると、突如砂の壁に体が埋まっている男性がいました。その男性はこう言いました。

「笑いすぎて、声が出ない。そこのあんた、助けてくれ……へへへ、ふへへへ」

 釣り人はその不気味な笑いに恐れ逃げました。その後、その砂は満潮時に流され、男たちの行方不明となりました。

 -名もなき離島の伝説 了-


「そんな童話を広げようかしら」


 シャルドネが冗談じみた口調で語りだし、右手を顎に当てておじさんたちを眺めます。


「ボクをお嬢ちゃんと呼んだ罰です」

「やっぱり男じゃん」

「……そうしておきます」

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