[手合わせ]冒険者シャルドネ 対 傭兵テツヤ
エルフの薬は万能薬とも聞きます。
ボクが少女に飲ませた理由は、単純に重傷していた為、血液となる栄養の補給の為にセイラにお願いして作って貰いました。
テツヤという男に飲ませた理由は、なんとなく悪魔の臭いがしたからです。いや、この男が悪魔という訳ではなく、悪魔から攻撃を受けたという感じでしょう。
まさかエルフの薬を飲むと、悪魔の魔力も滅ぶとは思いませんでした。それほど危ない薬なんですね。もちろん褒め言葉です。
「改めまして、錬金術師のゴルドです」
「一応言っておくけど私の男じゃなくて、旅の仲間よ」
先に釘を打つシャルドネ。ボクの隣にシャルドネが座り、テーブルを挟んで正面にはセイラとテツヤが座っています。
「俺はテツヤだ。この村の傭兵をしている。よろしくな」
「よろしくお願いします。テツヤはシャルドネの武術の先生だとか?」
「ああ、あの頃は色々あったが、今ではシャルドネの表情も多くなって、正直ほっとしているぜ」
「し、師匠! 何か恥ずかしいから!」
「はは、それに……
男を連れてくるとはな。娘が嫁に行くみたいで、涙が出てくるぜ」
「だーかーら!」
先に釘を打っても、次の工程ではきちんと持ってくる。さすがはこの村というべきでしょう。
「シャルドネの武術はテツヤから学んだと聞きましたが、テツヤは誰から武術を?」
「それは……はは、ちょっと言いにくいな」
「そうですか。ではこの本について何か知っていますか?」
「この本?」
そう言って見せたのは、ミッドの親が持っていた本です。半分ほど解読は終えましたが、分からない部分が多いです。特に神に関する部分は曖昧でわかりません。
「へえ、この文字は分かる。が、俺は読めない」
「ずいぶんと変な答えですね」
「ああ、すまない。そうとしか言えないんだ。多分『ねくろのみこん』と書いてあるんだが、この単語の意味が分からない。マリーなら分かるかもな」
そういえばマリーも知り合いでしたね。やはりこの本はマリーに見せるしかありませんか。雪の地……遠いのですよね。
「力になれなくてすまない」
「いえ、大きなヒントは得られたので良かったです。ありがとうございます」
そして本を荷袋に入れ、今度はシャルドネが話しかけました。
「師匠! 私の腕が上達したか、見てくれないかしら!」
そういえばテツヤは師匠。つまりシャルドネより強いのですよね。
普段ならこういう手合わせは見るのも気が引けますが、今回ばかりは気になります。
「ん、ああ。良いぜ」
「テツヤ、大丈夫?」
「大丈夫だ。いつも通りやれば問題ないだろう」
「怪我はしないでよ?」
その夫婦のやりとりに、若干の苛立ちが隣からひしひしと伝わってきました。
☆
初めてです!
ボクが開始の合図をするのは!
だって、いつもの流れだとなんやかんやでボクが試合をする流れでしたよ!
それが、今回は無いのです! やりました!
「え、えー、それでは始めますよ」
「師匠。手加減は無用よ?」
「ああ、そっちもな」
「それでは、開始!」
ボクの合図と共にシャルドネとテツヤは構えました。
あまり気にしていませんでしたが、シャルドネもテツヤも独特の構えとは思いました。地に両足をきちんとつけて、拳を握り、相手を見る。
剣や魔術が盛んな世界には少々不利ですよね。
二人とも呼吸を整えて、足を引きずりながら近づいています。そして。
一瞬でした。
瞬きをした瞬間、どちらも右手の拳を左肘で防いで、その場から動きません。まるで鏡です。
「はは、マジかよ」
「師匠、どうですか?」
「ここまで上がってきたとはな。やっぱりあの男か?」
「っ! それは」
「隙あり!」
一瞬の隙を狙って、テツヤは三発打撃を入れました。が、それを全て防ぎます。
「隙を見せかけて実は隙では無い。これも師匠から教わった技ですよ?」
「ああ、まさかここで使ってくるとはな」
「ということで、今度はこちらから……あれ?」
「どうした? 『まるで動けない』ようじゃないか?」
「……」
シャルドネはピクリとも動きません。何かあったのでしょうか。
「実は最近、人間のツボについて研究しているものでな。シャルドネ、最近肩こりが凄そうだな」
「な、何を……」
「なに、ツボを押して動けなくしたんだ。この状態から俺は殴ることも出来る。動けなくなってから百は殴れただろう」
「……負けました」
あっさりしすぎて驚きました。
まさか、あのシャルドネが、これほどあっさりと負けるとは。
「ふう、あ、今戻すぞ」
そう言って額に人差し指をピッとつけると、その場でシャルドネは倒れました。
「はあ、はあ、やっぱり強いわね」
「当然。師匠だからな」
やはり師匠というだけありますね。心を失ってもなお武術を教えて正しき道を示した人間だけあって「今度はゴルドが相手をするわ」目には見えませんがその背中には努力のけっかがああああああ?
「ちょっとシャルドネ何を言ったのですか!」
「いや、いつもの流れで」
「いやいや、ボクはそもそもこういうの苦手なんですよ!」
ボクが必死に言っている中、当のテツヤはというと。
「へえ、錬金術師か。初めてだな」
と言ってます。
いやいや、さすがに。




