[手合わせ] 錬金術師ゴルド 対 見習い魔術師ミリアム
悪魔との契約に用いたという魔術書をさっと見ましたが驚きました。
異国の地の文字ですが、できる範囲で解読すると解釈が凄いです。
読めない箇所も多々ありますが、神術もいくつか解読できました。
「またその本を読んでいるの?」
「あ、シャルドネ。葬儀は終わったのですね」
「ええ、ミリアムを慰めるのに時間がかかったけど、とりあえず近所のおばちゃんが任せてって言ってくれたから交代してきたわ」
「そうでしたか」
ミッドやミッドの両親が消滅してから三日が立ちました。
帰って最初の報告で全員が驚き、そして数人が泣き始めて、ミリアムは気絶しました。
ゴーレムも迫り来る悪魔に対して頑張ってくれたそうで、所々ボロボロでしたが守ってくれたそうです。
「悲しい事件とは言え、まさか悪魔の薬や私の母親を殺した原因がミッドの父親だったとはね」
「召喚したのは確かにミッドの父親ですよね。ですが、この本を渡したのは誰なんでしょうか」
そもそも誰から譲られた、もしくは拾ったなどの経緯までは聞いていませんでした。
「謎は深まるばかりね。とりあえずその本には何か良いことでも書いてあるのかしら?」
「そうですね。少なくとも神に抵抗する方法はいくつか書いてあります」
「……ああ」
「ああ。って何ですか! 当初の目的は悪魔の薬探しではありませんよ!」
いや絶対忘れていると思っていたので、少しの間黙ってましたが、やっぱり忘れてましたか!
「忘れていた訳ではナイワヨ? だって、悪魔の薬って死神から悪魔を譲って貰ったワケデショ? だから、どこか繋がりがアルカナーッテ」
「どうして所々棒読みなんですか! 『砂壁』! からの、『くすぐりの刑』!」
「ちょ! 本当にそれ冗談に、や、あ、あはは!」
シャルドネにはくすぐりの刑に処して、僕は『ばああああん!』読書に……砂が目に入りました。
「はあ、はあ、今日ほど師匠から武術を学んだ事に対して感謝したことは無いわね」
「その力を是非とも別な場所で使って欲しいところです」
「さて、町の雰囲気も落ち着いて来たし、そろそろ次の地へ行かないかしら?」
「次というと、『草の地』でしょうか?」
草の地は確か、シャルドネの故郷でマリーが現れたという場所ですよね。
「そうよ。草の地には私の師匠もいるし、何か手がかりがあるかも知れないわ」
「手がかり……そうですね」
そう言って、荷物をまとめて旅支度をしていた時でした。
ドアがこんこんと鳴り、開きます。
「ゴルド先生。手合わせ願います」
☆
ミリアムの目の周りは赤く染まっていました。ずっと泣いていたのでしょう。
ですが、それ以上にボクに強い視線を送っています。
「お互い危なくなったら止めるから、それで良いわね?」
「はい」
「ええ」
「ついでにゴルド。今回は縛り無しで良いわよ」
「え、良いのですか?」
「ミリアムの要望よ」
「……」
無言で頷くミリアム。一体何があったのでしょうか。
「ワタシはゴルド先生に会うまでは弱かったです。それこそ、ミッドの背中に隠れているような弱い魔術師でした。ですが、今日からはこの町を守る傭兵として、頑張ります!」
「……え、それで今日はボクが最初の敵だと……」
「ゴルド先生に勝てれば、大体は勝てるかと」
凄い信頼ですね。
これはボクも本気で戦わないと失礼になりますね。
「それでは、始め!」
かけ声と共に、呪文を唱え始めるミリアム。遅いです。
「投石!」
「くっ!」
呪文を取りやめ、ボクの攻撃を回避するミリアム。警戒しすぎです。
「投石。投石。投石」
「ひ、卑怯です!」
「卑怯ですか。ミリアムは逆に警戒しすぎです」
「相手を見るのは大事だと言ったのはゴルド先生です!」
「ですが見ていません。さっきからボクはただ『石を投げているだけ』ですよ」
「なっ!」
油断したのか、足を止めました。そこです。
「『砂壁』!」
「きゃああ!」
捉えました。あとはくすぐりでもして降参を……。
「『アイス・トルネード』!」
「なっ!」
周囲に氷の竜巻が現れました。砂壁が飛び散ります。
「ワタシは、負けるわけには行きません! 『アイス・ニードル』!」
「『土壁』! やりますね」
いつの間に覚えたのか、新しい術も使いこなしています。これは将来楽しみですね。
「『アイス・トルネード』!」
「『アメジスト』! さて、そろそろ決着と行きますよ!」
「っ! 『アイス・ニードル』!」
「『土壁』!」
「『アイス……』 はあ、はあ」
そうです。魔力不足です。
あんな大きな魔術を使えば、当然魔力は無くなります。
「『魔力探知』を使って見ていました。かなり無理をしていますね」
「はあ、はあ、でもこれに勝たないと……ミッドが」
「ミッドが?」
「ミッドが守ってきたこの町を守り切れない!」
「……それは、ミリアムがの感情論です」
「え……」
「ボクに勝ったら守れるという保証はありません。もしかしたらボクより強い何かが現れるかも知れません。むしろ、ここで負けることで慢心を消した方が良いと思いますよ?」
「慢心なんて……」
「事実、ミッドはシャルドネに負けました。それからずっと鍛錬をしました。だからミリアムも同じく鍛錬を重ねれば良いのです。そして次に会ったときにまた戦いましょう」
「ゴルド先生……」
ボクは決して最強ではありません。
だからこそ、ボクに勝ったから安心という状況だけは作りたくありません。
もちろん次に会うときも負けるつもりはありませんが、少なくとも次に会うときまでは鍛錬を欠かさず、そして魔術について勉強を続けて欲しいです。
「勝者はゴルドね」
「負けました」
ぺこりと頭を下げるミリアム。
因縁や宿題は残りましたが、とりあえず大きな一件がまとまった一日でした。
あ、このあとミリアムには負けた罰として砂壁の刑を実行しました。シャルドネには回避されたので八つ当たりです。




