ゴルド達 対 悪魔の薬
「はっはっはっは! シャルドネ姉ちゃん、守ってばかりでつまらないよ!」
「……」
シャルドネは見る限りピンチです。
ミッドの動きが速すぎて追いつくのがやっとという感じにも見えます。
「これもシャルドネ姉ちゃんが教えてくれた武術のおかげだよ! まあ守りしか教えてもらって無いけど感謝してるよ!」
「……」
「はっはっは、強くて言葉も出ないかな!」
「……はあ、なってないわよ」
「何?」
「最初で最後よ。攻撃の術を教えてあげる」
「は、はあ? 急に……え」
シャルドネが消えました。
いえ、目で追いつきませんでした。
「良い? 私の場合はまず相手の行動を見極めるの。そしてあまり強い攻撃はしないわ。相手の隙を確認するために二発は弱い打撃を打ち込むの。そこで勝てなそうなら逃げるわね。でもこれで普通に打撃が当たればもう勝利を確信するの。今二発当たったわね、と言うより怯んでいるわね。そこから強めの打撃、そして強打を打ち込み、相手に時間を与えるの。その後は駆け引きね。もし来るなら気絶。逃げるなら逃がすわ。今来たわね? つまり……
おやすみなさい。よ」
ありえません。話ながら、しかも凄まじい速さで攻撃をしつつ相手の攻撃も避けながら確実な行動を取っていました。
「がはっ!」
ミッドはその場で倒れ込み、しばらく苦しんでいます。
一方こっちはこっちで苦戦中です。
「『投石』!」
「『シャドー・ウォール』!」
闇魔術を使い、ボクの攻撃を防いだりと、なかなかしぶといです。
何より女性の方はボクの光球を受けてから今まで何もしていません。
「悪魔の本体……いえ、悪魔の依代だから何もできないのでしょうか?」
「やはり貴様は少し危ないですね。詳しすぎます。この場で消えてください!」
「ゴルド! 応戦に来たわ! 装備!」
「すみません、お願いします!」
シャルドネの右手に金色のグローブを生成。それと同時に疲れが一気に襲いかかります。
「があああああ!」
「ご、ゴルド?」
「よ、腰痛が……」
「……まずはあの女を倒してくるわね」
いや、別に冗談じゃないのです。
未だにボクの体で悪さする悪魔の魔力が、腰を集中的に攻撃してくるので、魔力を使うとそれなりに影響がでるのですよ。
「あの傭兵が来るのはまずいですね。ミッドは……使えませんか」
「息子を使えないというのは親としてどうなのかしら!」
強い拳が空を切りました。両親もさすがにまずいと思ったのか、後ろに避けました。
「ふふ、ですがこの悪魔の結界には入れませんよね?」
「ふん!」
ぱりーん。そんな音がしました。
「な、何!」
完全にミッドの父親は安心していたのでしょう。むしろ今まで余裕だったのは、後ろに結界があったからでしょう。
ですがボクの作った鉱石のグローブは、神すらも消滅させる特殊仕様です。それくらいは簡単に砕けます。
何よりボクが腰痛を再発してまで生成した特性グローブです。ここで活躍しなければ錬金術師、もとい精霊としての名折れです。
「な、こんなの予定外だ!」
「こっちはそれほど驚く事でも無いけど……」
ちらっとミッドの母親を見るシャルドネ。
未だにピクリとも動かない母親の姿に、シャルドネは苦い顔をしました。
「た、頼む! 妻だけは見逃してくれ!」
突如態度が一変したミッドの父親に対して、シャルドネの容赦はありませんでした。
素早く背後に移動して、背中を強く蹴り、母親をボクの方へ飛ばします。
「に、ニーヤ!」
おそらく妻の名前でしょう。ですが、ボクの仕事は一つだけです。
「すみませんが、ボクは貴女を消滅させます」
「……」
やはり一言も話さないミッドの母親ことニーヤ。気が引けますが悪魔なのでここは一つ心を鬼にして。
『精霊さん。ありがとう』
一瞬、頭の中に何かが語りかけた気がします。
よく見ると、母親の目はボクを見て、少しだけ涙を流していました。
悪魔の依代として人形状態になったとはいえ、ぎりぎり意識は残っているのですね。最後の力を振り絞ってボクに『心情偽装』で話しかけたのでしょう。
「そうですね、この世界には『カンパネ』という神様がいるのですよね。では、その神様に出会えることを祈ります」
そう言ってボクは、『光球』を放ちました。
涙を流した母親のニーヤ。そして同時に本体が消滅することでその悪魔の魔力が消滅してきました。
証拠にボクの腰痛が減ってきています。
「あ、ああ、ニーヤ……、いやだ、まだ……」
「結局何がしたいのか分からないけど、貴方は大罪を犯したのよ。素直に消えなさい」
「何が大罪だ……この本に描かれている内容が真実なら、この世界は……」
ー女神によって滅ぼされるー
そう言い残して、シャルドネの最後の拳によりミッドの父親も消滅しました。
最後に残っているのはミッドです。
「げほっ。はあ、負けちゃった」
「ミッド」
「ああ、シャルドネ姉ちゃん。ボクは、強くなれなかったよ」
「どうして悪魔の薬なんかに!」
「……シャルドネ姉ちゃんに追いつきたくてさ……」
「……」
「ここへ来たとき、父さんが悪魔と契約をしていたと知ったときは流石に驚いたよ。でもね、それ以上に闇の力を与えていたのが両親だって知って、思ってしまったんだ」
「思ってしまった?」
「そう。僕も簡単に強くなれるんだって」
人間は努力をすることで強くなれます。しかし、悪魔のささやきにより、飛躍的に強くなれることも可能です。ですがその対価は大きく、しかしミッドはそれを支払ってしまったのでしょう。
「シャルドネ姉ちゃんがこの町に来てくれたときは嬉しかった。もう会えないと思っていたから」
「また来るって言ったのに」
「うん、でもね。僕も旅に出ようと思っていたから。シャルドネ姉ちゃんみたいになろうと思ってたから。でも……もう無理だ」
神術『魔力探知』を使うと、ミッドの魔力は減ってきています。そして、今は最初に出会った頃よりも少ないです。
「ああ、心残りがもう一つあったな……」
「何よ……」
「ミリアムにいつも迷惑をかけていたから、お礼を言ってなかった……。僕からの最後の依頼を受けてもらって良いかな?」
「……わかった。何をすれば良い?」
ーありがとうって伝えてー
そう言って、ミッドは今度こそ灰になって消えました。
シャルドネの目には涙がありません。おそらく色々ありすぎて考えが追いつかず、悲しいという感情すら通り越して何も思いつかないのでしょう。
その代わりにミッドのいた場所には涙の跡が沢山ありました。
「ゴルド、改めて私は人間の脆さに恐怖すら覚えるわね」
そう言って、シャルドネとボクはその場から去ることになりました。




