整地作業
神々が住まう世界にて、人間と共に行動するという考えはありませんでした。
というより、目の前の人間はボクが精霊だという事に、驚きはしたものの、恐れはしないのでしょうか。
「最初こそ驚いて気を失ったけど、あれは不意打ちだからね。無しよ」
「何が無しなのですか?」
「私が気絶したなんて、人生でまだ一度も無いと言いたいの。だからあれは無し!」
素晴らしい発言? に圧倒され、とりあえず納得しないと永遠とこの話が続くのだと思い、とりあえず首を縦に振ります。
さて、一緒に冒険をするということだが、返事はしていないのに何故か決定とみなされていました。
無言は同意。それがシャルドネの言い分だそうです。これもまた素晴らしい持論ですね。
「男なら男らしくすぐ返事をするべきだと思うわ」
「ボク……男なのだろうか」
「え?」
一瞬、シャルドネとボクの間に少しの時間が空いた気がしました。いや、この問題はボクにとってそれほど深い考えで言ったつもりは無いのだけれど、とりあえず弁明は必要ですね。
「いや、精霊に性別はあるのかなと思いまして」
元々居た世界では、確かに見た目は人間でいうところの男に分類される姿でしたが、それでも自ら男だと名乗ったことは無いのです。
「まあ、何かと不便だし、今後は男って言えばいいじゃない。まあ、見た目は幼いから服によっては女の子に見えなくもないけど」
ぷぷっと笑うシャルドネ。銀色の鏡を再度出して、銀髪の髪の少年(自分)を見て少しムッとする。確かに見た目年齢は人間尺度の十代前半。シャルドネも同じくらいにしか見えないし、この金の塊の生成に力を使いすぎたから今の姿になっただけで、実際はもっと年上だと声を大にして主張したいです。
「まあいいです。諦めも肝心という言葉を神……父さんから聞きました」
ここで生みの親である神の存在を出すのも面倒でしょう。ここは父さんとしておきましょう。
「へえ、精霊にも父がいるのね」
……やっぱり素直に神って言えばよかったでしょうか。
とりあえず目の前の金の塊に目を移す。
「これ、さすがに目立つわね」
「まあ……じゃあとりあえず見た目だけでも少し神々しくしてみます」
ボクは地面に手を付ける。
続いて念じ、金の塊とその周辺に精霊術を施す。
「わ、え、形が!」
金の塊はまだ少し熱く、形を変える事は簡単でした。
その周辺も少し整えて、ボクの元々住んでいた世界を想像し、地形を整えます。
金の塊は大きな鐘の形になり、それを白い岩が吊り下げて、地面も周囲とは少し変化をつけて白く固め、誰が見ても聖域と言わんばかりの地形が完成しました。
「いやいや、さすがに神々しすぎじゃない?」
「ええ! ちょっと気合入れて頑張ったんですよ!」
「聖堂じゃあるまいし、誰かが来たらまず『なにこれ!』と言って周囲を探索するレベルで神々しいわ」
「……じゃあこの辺りに『認識阻害』の術式を埋め込みますよ」
「にんしきそがい?」
認識阻害は、その周囲もしくは自分という存在を隠蔽できる神々の編み出した術。精霊や魔力を持つ者にも使うことが可能な万能術です。
「……もったいないわね」
「ええ……」
ああ言ったらこういう。人間というのはわがままな生き物である。
「まあいいわ。あなたが帰るときに壊されてもしたら困るのはあなた。これで良いのかもしれないわね。ただでさえ空から何か降ってきたから人も来るだろうし」
「意外と優しい考えを持っているのですね」
「意外?」
「なんでも」
さて、大きな鐘と認識阻害により、この周囲には誰も近づかないと思うし、最終的に帰る場所は決まりました。
となると次の行動は。
「さて、冒険の再開よ!」
まあ、そうなるわけです。