避けたかった再会
「シャルドネ。ご迷惑をかけました」
「良いのよ。あれはマリーが知らなかったから起こった……悲しい事件よ」
「本当にごめんなさい錬金術師さん。お詫びに色々本を持ってきたから(やばいやばいこのままだとすぐにでもこの町から去ってしまうそれだけは何としてでも阻止して長く滞在を……っは!)違うの! これはその……違うの!」
何が違うのかを聞きたいところですが、とりあえず過ぎたことを攻めるのも後味が悪いので水に流します。
少し気絶していたボクは、研究所の医療室のベッドで寝ていました。
窓が近く、そこからは町を一望できます。これは良い場所に医療室を配置しましたね。
「まさか精霊が悪魔の魔力を探知するとあんな事になるとは思わなかったわ」
「でも、船長の魔力反応を見たときはなんとも無いわよね?」
「はい。魔力の大きさや気配を探知するのと、悪魔の魔力を探知するのでは術が少し異なります。料理の香りを嗅ぐか、食べるかの違いと思っていただければ」
とはいえ、こうなることはなんとなく予想できたので、断れば良かった話でもあります。
全てがマリーの責任でも無いのです。
ちなみにまだボクの体内には悪魔の魔力がいたずらして、ところどころくすぐってきます。
「今回の一件で影で動いていたモノが見えたわ。早急に薬の出所を探して対策をしないと……」
マリーは長としての考えを述べています。研究が好きとは言っても、安全が一番大事ですよね。
……。
待ってください。
血液の中に悪魔が潜んでいました。
そしてボクの中にはまだ悪魔がイタズラしています。
つまり。
今、牢屋に入っている船長兄弟の中にはまだ……
悪魔が居るんじゃないですか!
「マリー! 船長二人をすぐに始末してください!」
「急にどうしたの? 精霊と人間で種族は異なれど、同じ生物よ? もう少し人情をね?」
「違います! もう彼らは人間ではっ」
そう言った瞬間でした。
下からドンっと一瞬音が聞こえ、それが数回。
回数を重ねるごとに大きくなります。
「っ! シャルドネ! マリーを抱えて窓から出て行ってください。安全な場所に持って行ったら、屋上へ来てください」
あの悪魔が、牢屋の中で力を蓄え、それが終わったら最初にやることはおそらく復讐でしょう。
「了解。ゴルド……死なないでよね」
「え! しゃ、シャルドネ! きゃあ!」
シャルドネはマリーを抱えて窓から飛び出しました。
窓から見える町に飛び出したシャルドネは見えなくなり、代わりに地響きがさらに近づき、そして。
ばあああああん!
そんな爆音が、爆発と共に鳴り響き、ボクの近くの床が破壊されました。
「ミツケタ」
「アニキ。コロソウ」
すでに悪魔に飲まれてますね。
力を得る代わりに、代償を払う。彼らは薬だから悪魔と契約をしていないと思っているのでしょうけど、悪魔はそれほど優しくありません。
ただでさえボクのお腹付近をまだイタズラするこの悪魔も、早く消えて欲しいところです。
「どうしてくれるんですか。床を修繕する依頼がボクに殺到するじゃありませんか」
「ウルサイ」
「ダマレ」
自我を失っていますね。まずは……この狭い医務室から逃げるしかありませんか!
「少し、追いかけっこをしましょう! 『砂風』!」
そのかけ声と共にボクは砂をまき散らします。
相手の目をまずは奪い、そして逃げます。
「ミエテイル」
「ニガサナイ」
逃げようとした先に船長兄が飛びかかり、床ごと踏み潰しました。あれに潰されたら危ないです。
「そうでした。ボクの中の悪魔を消さないと、丸見えでしたね」
服の上から手を当てて、悪魔の魔力の除去を加速させようとしたら、服にはところどころ穴が空いていました。ゲイルドから貰った服ですが、仕方がありません。
服よりも命ですよね。
「聖術は不得意中の不得意ですが、背に腹は代えられません! 『光球』!」
「ガア!」
「ヌウ!」
光の玉を天井に向けて放ちます。天井には穴が空き、上の階層が見えました。
ついでに船長兄弟も聖術には弱いみたいで、目を押さえています。
「今のうちに屋外ですね!」
「マテ!」
船長兄がボクを捉えようとするも、足に風を起こして、勢いよくジャンプし、上の階層に移動します。
「続けて『光球』! 『光球』!」
目を奪いながら、上へと向かい、そしてようやく……。
「屋外……この広さならまだ楽ですね」
屋上へと到着です。
「ニゲルナ!」
「タタカエ!」
船長兄弟も床を破壊して到着しました。
「理由があったのですよ。ずっとお腹をくすぐってきて、正直笑いをこらえるのに必死でしたよ!」
そしてボクはようやく、体内に残る最後の悪魔の魔力を除去しました、
「ハンノウ、キエタ」
「オマエ、人間ジャナイ」
「ええ、あなたたちの前に立っているのは、とっても強い精霊ですよ!」




