旅立ち~そして宿代稼ぎ
港の復興もそれなりに進み、ボク達は旅の準備を始めていました。
「シャルドネちゃん、ゴルドくん。もう行っちゃうの?」
「ええ、時間はあるけど、ここに住むつもりはないからね。それにあいつらも連れて行かないとね」
「……」
ミルダは少し悲しそうな顔を浮かべます。
人間は出会いと別れに何かしらの感情を浮かべます。ボクには理解が難しいですが、ミルダ……というより人間の寿命を考えるともしかしたらこれが最後と思うと寂しいのでしょうか。
シャルドネの言うあいつらと言うのは、この港で悪さをした船長二人のことです。この二人の魔力の増加は異常なので、魔術研究所で調べてもらおうとなりました。
ミルダの母親のゲイルドが何やら衣類のようなモノを持ってボク達に話しかけます。
「お二人にはとても感謝しております。せめてこれを」
そう言って渡されたのは、とても柔らかい衣類でした。
「あら、これは良さそうな服ね」
「私の幼い頃に来ていた防寒着です。お古ですみませんが、この寒さくらいは耐えれるかと思います」
「ありがたくいただくわ。同時に貴女は私に感謝を言う必要は無いわ」
「え?」
「私は貴女達を助けた。その報酬をいただいた。だからこれ以上の感謝は余計よ」
「ふふ、シャルドネさんらしいですね」
ゲイルドは笑ってシャルドネに話します。冷たい態度に対して笑顔で答えるゲイルドの気持ちもボクにはわかりませんが……悪い空気ではありませんね。
さて、いただいた服はゲイルドのお古と言ってましたが……あれ、女性物では?
「ぷっ、ゴルド。似合ってるわ!」
フリフリでもふもふのコート。そしてふわふわな帽子。どう見ても女の子です。
「……いえ、別にボクは気にしません。ただシャルドネに笑われるのは不愉快ですね」
「これで旅路は飽きずに済むわ。唯一コートの模様がゴルドと一緒なのが気になるけど」
確かに。色は赤を主体としたもふもふコートがシャルドネ。青を主体としたコートはボク。お古と言っても似ている服というのは不思議ですね。
ということで、心情読破を使ってみました。
(……なるほど、ゲイルドには妹がいたのですね)
やはりあまり人間の感情を読むのは良くないのでしょう。今まではそれほど落ち込んだり喜んだりする感情を湧くことはありませんでしたが、これは少し罪悪感を感じます。
ボクが悲しそうな表情を見たのか、ゲイルドから一瞬力を感じました……あれは神術の心情読破の探知の……。
「ゴルドさん。覗いた通り私には妹が居ました。もちろん今は……」
「すみません。勝手に覗いて」
「いえ、良いのです。それに、貰ってくれて妹も喜ぶでしょう」
「ありがとうございます」
湿った空気もありつつ、ボク達は荷物を持ち上げる。
「さて、そろそろ行くとするわね」
「シャルドネちゃん! いつか、いつかミルダも強くなる!」
「じゃあ私より強くなったら、挑んできなさい!」
「うん!」
変な約束をしないでください。シャルドネが二人に鳴ったら、世界が大変です。
「ふふ、ミルダがこうして笑顔を取り戻したのも、お二人のおかげです。ありがとうございます」
「感謝は無用と言ったのに……まあいいわ。じゃあ二人とも、また会いましょう」
「はい!」
「うん!」
シャルドネの言葉に、少し温もりを感じました。
また会いましょう。これは単純な別れの挨拶では無く、もう一度ここへ来るという約束の言葉。
守られるかはわかりませんが、希望があり温もりもある言葉でした。
「やはりシャルドネは不思議な人ですね」
「ん? そう」
微笑んだシャルドネは、いつもの凄まじい怪力を全然感じさせない、ただの少女の笑顔でした。
☆
皆様はマンドラゴラという植物をご存じでしょうか。
引き抜くと大きな悲鳴を上げ、それを聞いた『人間』は精神を破壊され、最悪死に至るという。
人間が引き抜くとです。
ぎゅああああああああああ!
じょあああああああああ!
ぎゃぎゅぎょぎょぎょぎょ!
「まさか、マンドラゴラを抜き取る事になるとは思いませんでした」
ボクは今、北に向かう途中で見つけたマンドラゴラの生息地でマンドラゴラ採取をしていました。
これから向かう北にある魔術研究所たる場所は、様々な魔術を研究しているとのこと。
そして同時に薬学の研究もしているとか。
そんなわけで、マンドラゴラは高級素材として、とても高く取引されているとか。
「通貨も無い世界でマンドラゴラを宿屋に出すと数日泊まれるとは……不思議な世界ですね」
「……い……らー?」
シャルドネが遠くから何かを話しています。彼女は人間なのでマンドラゴラの声はダメなのでしょう。
……いや。大丈夫なのでは?
そう思いましたが、また拳が飛ぶと思ったので声にはだしません。とはいえ、何を言っているかわかりませんので、久々に石を使って音を集約する形をした物を生成して耳に当てます。
「もういいかしらー?」
「ええ、五匹も捕まえれば良いでしょうー」
ボクの返事にシャルドネが近づき話しかけます。
「いやー。北の魔術研究所の宿を取るの、結構苦労したのよね」
「前回はどうやったのですか?」
「マンドラゴラにロープをくくって、遠くに行って引っ張ったのよ」
まあ、安全だとは思いますが、それなりに長いロープが必要のため、手間なのです。
「それにしても精霊というのは便利ね。そもそも鉱石精霊という事だけど……」
僕をジロジロ見てボソッとシャルドネは言いました。
「最近魔術しか使って無くない?」
「ちゃんと使ってましたよ!」
そしてボクは神術『過去投影』を使います。対象にボクの目線で見た過去を映す神術です。
「ほら! この『土壁』は精霊術です!」
「あー、大砲を防御したときの。あれは精霊術だったのね」
「ほら! これはシャルドネが吹き飛んだ時に使った引き寄せた場面! これは実は磁力を扱っていて、シャルドネの腰のダガーに反応させて引き寄せたのです!」
「……え、もし武器が無かったら海へそのまま飛ばされてたの?」
「ほら! このシャルドネの義手は紛れもなく精霊術です!」
「神術使ってたけどね」
最近精霊としての自覚が少し薄くなってきた気がしました。
「まあ、今日のマンドラゴラ採取が早く終えられたのはゴルドのおかげだし、あなたは紛れもなく精霊よ」
「そう……ですか」
なんとなく励まされましたが、どうも納得いきません。
「まあ、女の子の格好しながらマンドラゴラを取る姿は滑稽だけどね」
「てい!」
とりあえず近くの雪をさっとかき集めて雪玉を飛ばすとシャルドネに命中しました。避けれたはずのその攻撃に、わざと当たってくれたのでしょうか。
ちなみに、シャルドネの後ろにはロープで腕を固定された船長兄弟がいるのですが、あの距離でもマンドラゴラの悲鳴は効果があったらしく、しっかり気絶していました。
同じ距離のシャルドネがなぜ無事だったのかは、とりあえずその辺の人間より強いからと思っておきましょう。
「ゴルド。浮遊か何かで運んでくれる?」
「僕は便利屋ではありませんよ!!」
序盤が予想以上にあっさりと仕上がったので、マンドラゴラの部分はほのぼの?書きました!




