先制攻撃
「シャルドネちゃん! ゴルドくん!」
一人少女の悲鳴が空に響き、ボク達は今空を飛んでいました。
ボク達の乗っていた小舟も宙に浮いていますが、ボク達よりも下にあります。それもそうです。人は軽いのです。
「あのねゴルド。さすがに急すぎだと思うの」
シャルドネは冷静でした。
やはりこの人間は不思議です。この状況でもクルクル回りながら僕の目をしっかり見て話しています。
「ボクの計算だと、このまま落下すればあの大船の甲板に着地できます」
「それは良いんだけど、ミルダはどうするの?」
「「……」」
「ちょっと! 黙らないでええええ!」
冗談です。どちらかが助けることくらいは考えていました。
「私は無理ね。ゴルドは疑っているけど、私は人間だから空中で移動はできないわ」
「そうなんですか? てっきりその身体能力を使えば、空中浮遊はできなくても、横に移動くらいは」
「そんなの魔術を使わない限り無理よ。だからミルダをお願い。私は甲板にいる船員……そうね、最低三人は倒しておくわ」
「わかりました。ということでミルダ。ボクがなんとかします」
「なんでそんなに冷静なのよ!」
ミルダも悲鳴と文句を言いつつも、それなりに会話ができているので、あまり心配が必要ないのでは? と思いました。
大船に『魔力探知』を使って見ると、甲板に五人。見張り台に一人。後方に二人。船内に……色濃くてわかりません。
「船内に数人固まっています。甲板を終えた後は船内をお願いできますか?」
「分かったわ。じゃあ早速」
ボクの飛ばした小舟が先に船の甲板に落ち、大船全体を大きく揺らします。それに足を取られた船員が怯みます。
シャルドネは、大船の甲板に落ちる直前。少し体を回して足を振り下ろしました。
見張り台にいた船員の頭にかかと落としを食らわせて、甲板に着地しました。やはり人間とは思えません。
ボクは自分とミルダに浮遊の魔術を使いました。
落ちる直前、フワッとした感覚が全身を覆い、ゆっくりと着地します。
「こ、怖かった……」
「精霊はそもそも歩かないので、この程度は慣れているのですが……」
「精霊?」
そうでした。ボクは今錬金術師でした。
「いえ、それよりも……シャルドネは強いですね」
甲板に居た五人が全員気絶している。三人と言ったのは何だったのだろう。
大船の後方に居た二人が剣を持ってこちらにやってきました。
「ご、ゴルドくん!」
「大丈夫です。二人なら問題無いです」
精霊術で手から尖った鉄を生成。少しこだわりを入れて、持ち手を加えてダガーの形にする。ポイントとしてはこの紋章で、特に意味は無い模様が少し味を出しています。
二つ生成して投げると、一つは一人の足に命中しその場で倒れます。もう一つは剣で弾かれました。
これは予想していませんでした。人間なら投げられたナイフ等は偶然で無い限り防げないと思っていましたから。
「へへ、危ねえな。どこから出したか分からねえが、ちんけなダガーでやられる俺では無いぜ」
ちょっと傷つきました。
結構凝ったのですが。
「ゴルドくん!」
「まあ、大丈夫です。ダガーならこの通り」
何も無い両手。それを少し振るとあら不思議。指の間にダガーが現れます。
「なっ! お前、何本持ってやがる!」
「ボクの体力が持つ限りです」
そう言ってボクはダガーを投げる。
「くっ! さすがにこの数は!」
ちなみにボクは別にナイフを投げる名人ではありません。だから少し魔力を使って、軌道修正を行います。例えば。
「ぬあああ! 何故海の方に飛んでいったダガーが急に曲がって来やがる!」
……ボクが説明するつもりだったのに。
とりあえず船員の戦意は喪失。
今頃船内に潜り混んだシャルドネも、船員を始末している頃でしょう。
ばあああん!
まさにほっとしていた頃でした。
船の中央から大きな音と共に、床が吹っ飛びました。
吹っ飛んだ床の中に、人らしきものが紛れてますが……あれは、シャルドネです!
「シャルドネちゃん!」
「危ないです!」
船外に投げ出されそうになっていたシャルドネを精霊術で磁力を発生させ、なんとかシャルドネを甲板に引っ張り出す。
「あ、危なかったわ……」
「何がありましたか?」
「……ふふ、アレは怪物ね。油断したわ」
穴の開いた床を見ると、そこから大きな魔力反応がありました。
あれは……人?
「協力して頂戴。あれは私だけでは無理よ!」




