最初の戦い
どの世界にも抗ってはいけない存在、逆らってはいけない暗黙のルールが存在する。
ボクの住む神々や精霊たちが住むこの世界でも、その暗黙のルールが存在する。
そしてボクは今、この神々の住む世界の中で一番恐れられている神に、喧嘩を売っている最中だった。
☆
「下位精霊が私に逆らうなんて、愚か過ぎないかしら?」
「でもボクは、あなたの行動に不満がある!」
ボクの目の前には神々しく輝く神が立っている。そしてその神はボクが住むこの世界の頂点に立ち、一番恐れられている存在でもある。
「私のやり方に不満ね……ではあなたにも消えてもらうしか無いわ」
「あなた『にも』。つまりボクと同じ行動を取った精霊がいたのですね!」
「ええ。そして私は迷わずこの右手を突き出して、ポンっと消すの。不思議でしょ? この力を使うと周辺の精霊の記憶も消えるのよ?」
言っている意味が分からない。
自分の気に入らない存在があれば消す。そんな神がこの神々が住む世界に存在して良いのだろうか。
誰も行動を起こさないと思っていたけれど、ボクよりも前にこうして抗った精霊がいたという事は信じがたい。記憶が消えるというと、実は知り合いだった精霊も消されていたのだろうか。
「さて、鉱石の精霊さん。最後に言い残すことはあるかしら?」
「……るってる」
「なんですって?」
「あなたは狂ってる!」
ボクの右手から金色に輝く石を生成し、それを全力で目の前の神に投げつける。
そしてその全力の攻撃は……
キィン!
と、音を立ててはじかれてしまった。
「女神様。お怪我は?」
「ふふ、別にあのくらい、当たっても良かったのに」
「そうはいきません」
いつも頂点の神の隣に立つ側近が、目に見えない速さで剣を抜き、ボクの金色の石を弾いていた。
「さて、言い残しは無いわね。そろそろ『いつもの』をやって、暇つぶしに戻るわよ」
「……はい」
側近との会話に少し違和感を感じつつ、ボクは構える。
目の前の神は言った。右手から何かを出して、相手を消す。と、つまり神術の類の何かをするのだろう。
「さようなら」
パシュ!
「!」
一瞬だった。そして偶然だった。
頂点の神から放たれた光の球体は一直線にボクへ向かい、当たる瞬間ボクは手から金色の鉱石を出し、光の球体はそれによって防げた。
相手をよく見ていたからこそ出来た偶然だった。
「防がれた? これは……厄介ね」
「はあ、はあ」
頂点の神は防がれた事に対し予想外だったのか、少し苦い顔をする。
ボクも何が起こったかも理解できないまま、再度構える。
「でも、さすがに数発撃てば消えてくれるよね?」
「はあ、はあ」
恐怖。
本来精霊には無いはずの感情なのに、この時ばかりは恐怖という感情が初めて理解できた気がする。そして、その感情が増すごとに集中力が切れ、集中力が薄れてくる。
攻撃が来る前にボクは数発金色の石を投げた。
「やああ!」
「無駄ですよ」
やはり側近の剣で弾かれ、ボクの攻撃は届かない。
「じゃあ、さようなら。鉱石の精霊さん」
パシュ! パシュ!
光の球体が数発放たれ、ボクは終わったと思った。
しかし、数秒待っても意識が消える事は無く、反射的に閉じていた目を開くと、目の前には大きくて、老いていて、大きな杖を持つ者が立っていた。
「あら、鉱石を司る神の登場? どうしたのかしら?」
「どうしたも、ワシの部下が無礼を働いたと聞いてな。どうじゃ、ワシに免じて許してくれんかの?」
「ダメね。この世界では私が全て。わかるでしょ?」
二人の会話に入れないボク。しかしこのままではボクの父とも言える鉱石の神が危険である。
「か、神よ。ボクの事は放ってください。ボクが悪いのです!」
「ふん、知った事。ワシはいつか訪れるこの日を待っていたに過ぎんよ」
「待っていた?」
疑問に思いつつ、ボクの言葉を遮るように頂点の神が鉱石の神に話しかける。
「予想ができたのであれば好都合。今のうちにあなたにも消えてもらおうかしら?」
「ワシも神を名乗る以上、安易に負ける訳にもいかぬよ」
そう言って鉱石の神は振り向く。
「良いか。お前の使命は一つ。彼の女神を抑える者を連れて来い! それがワシの最後の頼みだ」
「神、何を言っているんですか!」
最後という単語に不安と疑問が浮かぶ。
「ふふ、ワシは楽しかったよ。運が良ければまた会おうぞ!」
足元には魔術的な陣が描かれ光る。これは転移の類のものだ。
「や、か、神! なりません!」
「待っとる。そして連れてこい。鉱石の精霊よ!」
そしてボクは、転移の魔術に逆らうことが出来ず、この神々の住む世界から飛ばされてしまった。
小さい頃、もしくは今やっている王道のファンタジー。そういったものから影響を受けて書かせていただいてます。少しでもおもしろいと思ってくださったら幸いです。また、気に入っていただけたら是非ブックマークをお願いします!