07.
その日、珍しく私は生徒会に顔を出さなかった。
詳しく言えば、羽衣石さんに話しかけられた昼休み以降の授業に集中出来ず、ホームルーム終了直後にそのまま寮へと戻ったのだ。
部屋に戻ってすぐ、チャット型連絡アプリで清歌先輩に休む旨の連絡を入れて部屋着に着替えると、ベッドに突っ伏した。
「あ゛ー……こんなつもりじゃなかったんだけどなぁ……」
思い出すのは、羽衣石さんに腕を掴まれ、至近距離で顔を真っ赤にしながら私への想いをたどたどしく、それでも心の篭った声で伝えられたこと。
急に腕を取られたことに驚き固まっているところに、ぐいっと踏み込まれ、目を見て想いを伝えられた。
こんな恥ずかしい経験、生まれて初めてだ。
自分の表情は見えないけど、絶対に見られたら可笑しな顔をしているのだろう。
それからしばらく一人悶ていると、咲桜が帰ってきた。
「あれ、リリ早いね」
「……おかえり」
いつもなら私に向かってかけられるはずの言葉を、逆に口にする私。
最近は部活によく顔を出すようになって帰る時間が遅くなったみたいだけど、それでも私より早く帰ってきて作品造りを進める咲桜。
咲桜より早く帰ってきたことなんて今まで一回もなかったな……なんて思っていると、
「リリ、具合悪いの?」
と心配そうに見つめてくる咲桜。
なんて良い子や! と感動する……訳でもなく、ただ首を横に振ってそのままの体勢で寝転がっていた。
「……何か、嫌なことあった?」
ぶんぶんと首を振る。むしろその逆。
そのまま暫くしていると、遠慮がちに咲桜が近寄ってきている気配がした。
ギシッ。
すぐ側に腰掛ける音。
心配してくれるのはありがたいんだけど、ちょっと顔見せられないかな……と思っていたら、咲桜さんが思わぬ行動に出た。
「はいごろーん」
「おわっ、わわっぷ!」
私が抱きしめるように掴んでいた布団を思いっきり上に持ち上げ、無理やり仰向けに返される。
講義するつもりで半眼で睨むと、そこには「してやったり!」という表情をした咲桜がいた。
「……やっぱり嬉しそうにしてる」
「…………。そんなことないけど」
「わたしが分からないとでも?」
それもそうか。
「わかる?」
「うん。例の娘といい事あった?」
「……絵は進めなくていいの?」
「誤魔化さない」
「ごめんなさい」
私は咲桜に話すべきか一瞬悩んだ。でも、話さないことはこれまでに色々と相談に乗ってくれた咲桜に失礼だと思い至り、すぐにその考えを止めた。
咲桜と向かい合うようにしてきちんと座り直す。
「まあ、告白されたかな」
「へえ〜そうなんだ。で、なんて返事したの?」
誰から告白されたかよりも、告白への返事の方が大事なのね。
普通は相手は誰なのか根掘り葉掘り聞こうとするものだけれど。
「その娘のこと、気にならない?」
「別に?」
「そ、そう……」
咲桜は気にならないらしい。
「わたしの一番はリリーだと知ってるからね。勝者の余裕かな」
「ぶっふっ、ゲホッゲホッ! ……なんて?」
「リリーの一番はわたし。わたしの一番もリリー。違う?」
違わない。とは断言は出来ない。
でも、あながち間違いでもないのも事実。
恋愛的な意味とは限らないけど、大切な人は? と聞かれたら真っ先に咲桜の名前が出てくるんじゃないかな。
つまり、私と咲桜は相思相愛だから他の女なんてメじゃないってこと……? 随分強気な事で。
間違いでもないからいいけど。
沈黙という答えにならない答え方をした私だったけど、咲桜は満足そうに頷いていた。
私にも時々咲桜の気持ちが分からないことがある。
……今回はなんて思っているのだろう。