06.
あのまま居なくなられてしまって、結局私のお返事はいいの……? と疑問に思っていたら、案の定翌日にまた呼び止められた。
「先輩……」
「君は、昨日の」
「はい。羽衣石なずな、って言います」
そう言うと、羽衣石さんは私の目の前に勢い良く両手を突き出すと同時に頭を下げた。
なんだなんだ、新手の魔法でも私に掛けようとしてるのか? と思って(いる訳ではなく実際はびっくりして)目を瞑っていたけど、何も起こらないから小さく目を開いた。
白い封筒。そして綺麗な字で書かれた私の名前。
なるほど。
「これは……ラブレター、かな?」
「らっ……! は、はいっ……! そうです」
いざ言葉に出して言われると恥ずかしいのか、表情は見えないもののサラサラしていて綺麗な長い髪から覗く耳が朱に染まっている。
何度もラブレター(というよりファンレターが大半だった)を渡されてきた私だけれど、こんなに本気で恥ずかしがられたのは初めてだ。
「ありがとう、後できちんと読むね」
「は、はいっ!」
「あー……羽衣石さんって何組かな?」
「中等部の二年一組です!」
わかった。と行って丁寧に鞄にしまう。
なぜだろう。いつもなら、軽く目を通してお断りと見ていてくれてありがとうという内容の手紙を機械的に書くだけの、正直に言って手間な作業なのに。
なんだか少し楽しみにしている自分がいた。
* * *
昨日、西園寺先輩に覚えていてもらえたこと、きちんと向き合ってもらえたことに舞い上がりすぎて、手紙を渡せなかった私。
寮に戻ってからローブのポケットに入っていた手紙の存在を思い出して、真っ青になった。
(ばかばかばかばかばか!!! 何のために先輩に勇気出して声かけたの!!?!?)
机にゴンゴン頭をぶつけて自らを責めるも時すでに遅し。
恥ずかしさと情けなさに落ち込みながら、今度こそ失敗しないぞと意気込んで自分に勇気の魔術をかけて次の日……つまり今日も先輩に声をかけたのだ。
「聞いていたとおり、受け取ってはくれたけど……」
先輩は告白とか、お手紙にはきちんとお返事をしてくれるらしい。
でも、そのほとんど……というより全てが断られているという。
一部の噂ではもう付き合っている人がいるだとか、学園の外に好きな人がいるだとか、先生と秘密の関係にあるだとか……。
でも確固たる証拠がないというのも、恋する乙女たちを本気にさせるものであって。
毎週のように手紙だとか口頭で告白されているという噂だ。
私も西園寺先輩に一目惚れしたクチだけど、先輩を見かける度に強くなるこの想いは本物だと確信させられた。
でも、やっぱり勇気が出なくて。
一目惚れした直後にお手紙を書いたり話しかけようとしてみたものの、直前になって逃げ出してしまったのだ。
でも、もうすぐ夏休み。
逃げてばかりじゃ掴めたはずの幸せも見つかりっこない。
そう思って、心の隅で結果は知っていながら、魔術という力を借りて先輩に告白をした。
私から受け取ったラブレターを鞄に仕舞うと、踵を返そうとした先輩。
私は慌てて細くて華奢なその腕を掴んだ。
先輩が驚いて目を見開いていたようにも見えたけど、私は伝えきれていない想いを早口で伝えるのに一所懸命になって気づいていなかった。