04.
「恋、ね……。リリーいつもそこら中の女の子と仲良くしてるからなぁ……」
「そ、そんなことないし! 私はそんな軽い気持ちで接したりしないよ!!」
「じゃあみんなに本気なんだ。ハーレム作れるんじゃない?」
ニマニマしながら見つめてくる咲桜にちょこんと舌を向けると、咲桜は笑いだした。
「冗談だって」
「はぁ……」
「でも、ま、わたしはリリーのこと好きよ」
「なっ……!?」
驚愕と共にバッと顔を上げると、そこには人をーー主に私だけれどーーをからかうときに見せる表情の咲桜がいた。
「驚かせないでよ」
「冗談だけど、冗談じゃないよ」
一体この子が何を言っているのか理解できない。
今度は真面目な顔になって咲桜は続ける。
「別にわたしはりんりん学校の肝試しでリリーと一緒にヘア組んで歩いても良いと思うくらいには好きだから」
「…………」
「あなたも言われてみれば別に悪くないかなって気もするでしょう?」
違う、と言いたいが……そう思えることも事実だ。
正直、私は咲桜と付き合うのも悪くないと思っているし、恋についてあれこれ考えたとき、想像上の恋人となるのはいつも身近にいる咲桜であった。
「狂ったように絵を描き続けるわたしだって、女の子なんだよ?」
「うん、知ってる……。でも……」
彼女の秘密を、頑張りを私ただ一人だけが知っている優越感。
一緒にいて話をしていてとても楽しいし、お互いに信頼している。
これ以上に理想な相手はいないんじゃないかと思わせられるくらい、咲桜は完璧な人であった。
でも……。
「でもあなたはわたしにここまで言われても、結論を出せずにいる。違う?」
「…………違わない」
「ね? それはあなたが本当の恋を見つけられてない証拠だよ。わたしはリリーにとっていい相手かもしれない。わたしにとってもね。でも正直で誠実あなたは答えを出せずにいる。……きっとあなたの心の中にいる誰かの存在が引き止めているから」
「心の中にいる、誰か……」
「そう、もう顔もはっきり思い出しているはずよ。その人の存在があるから、わたしの言葉にはっきりとした言葉を返せない。その人のことが心の隅に引っかかっているから」
そして咲桜の言葉によって思い出す、一人の女の子の顔。
「わたしだって恋なんて言葉、良くわからないよ。今までの人生で絵ばかり描いてきたんだもん。リリーのことを好きだっていうのも、本心なのか友達としての好きなのか、良くわからないよ」
「……咲桜には、そういう人はいないの?」
「…………。いるよ」
「それなのに、私に好きだなんて言うの?」
ちょっと困ったような表情を見せ、一瞬言葉を詰まらせる咲桜。
「よくわからない」
「……答えになってないじゃん」
「わたしにだって、恋なんて感情分からないよ。人生の経験値が足りないんだもん。だから一緒に経験を積んでみるのも良いんじゃない?」
今度こそ返答に困る。
だって……。だって。
「本当に正直な人。……そういう所がリリーらしい。私の想う好きという感情なのかもしれないね」
「……咲桜の言葉は嬉しいよ。でも……ごめん。少なくとも、好きという気持ちが分かるまで、この想いの正体が分かるまで待ってほしい」
わたしなりの、咲桜への誠意。
きっと数日前に同じ言葉を聞かされていたのならばきっとわたしの答えは単純明快だったに違いない。
こんなにも部屋が重苦しい空気に包まれず、目の前のルームメイトも私も笑顔になれたであろう。
でも今の私には、こう答えるしかなかった。