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12.

 思考の海に沈んだリリーを連れてわたしはおばあちゃんの屋敷にやってきた。

 個展会場のギャラリーがある3区から車で三十分ほど、凱旋門を北東に掠める16区の中でも特に閑静な通り沿いの大きな門から敷地に入る。


 車を降りてメイドに促されつつ一年ぶりに踏み入れた玄関は、前来たときから特に変わった様子もなくわたしを出迎えてくれた。そしてそこには大好きなおばあちゃんも待ち構えてくれている。


『おかえりなさい、よく来たわね』

『おばあちゃん、ただいま』


 駆け寄って優しく抱きつく。


『個展はどうだったかしら?』

『大勢の人たちが来てくれて驚いたわ』

『それはよかったわね。……お話したいことはたくさんあるけれど、まずはお部屋でゆっくりお休み?』

『うん。ありがとう』


 リリーのことを軽く紹介して、さっさと部屋に引きこもる。

 彼女は客間に案内をされたので今は一人だ。


「きっと、あの絵の意味に気づいてくれたからだよね……?」


 個展会場を案内しているときに突然あの絵の前で立ち止まり、何も言わず考えに耽ってしまったリリーのことを思い出す。


 自分で意図してやった事だけれど、やっぱり悲しくなってきた。いや、悲しさに気づかないようにしていたという方が正しいか。


「もしかして、これが失恋ってやつなのかな……?」


 次、リリーと顔を合わせるときにはきっと、リリーは私のことをなんとか振り切ろうとして新しい想いをもたらした後輩の娘のことを一番に考えるよう努力するようになるでしょう。

 そうしないと私に失礼だって、そう思うだろうから。

 でも結局忘れられずに影で泣いてしまうんだろう。


「きっと、今も部屋で泣いてるんだろうな」


 星花に入って、彼女の隣に誰よりも長くいたから分かる。

 優しくて、格好良くて、こんなわたしにも気を遣ってくれて。

 完璧に見えるリリーだけれど、実は涙もろいところとか、誰かに肩入れしすぎて苦労してしまうところとか。

 きっとわたししか知らない一面を思い浮かべてみる。

 ……そして考えたくもないのにそれを他の誰かに取られる想像をしてしまって。


 わたしも、気づいたら涙を流していた。


「……わたしだって未練たらたらじゃん」


 絵を描きながら、完成したら心決めてリリーを諦めようって決心してたはずなんだけどなぁ……。


 リリーに深く触れるまで、こうも心揺さぶられるほどわたしの感情がぐしゃぐしゃになるとは思ってもいなかった。


 ええ、認めましょう。

 わたしは西園寺莉凜が好きだ。

 リリーのことを、愛してる。

 そしてリリーもまた、わたしを愛していた。

 言葉にしないまま、わたしたちもその愛に気づかないまますごしていた。


 でも、このままではいけない。

 今の状態は依存だ。

 わたしはリリーの優しさに。

 リリーはわたしの儚さに。

 きっと自分の居場所を見出してしまっていたに違いない。

 そしてその居場所に甘えてしまっていたに違いない。都合よく。


 星花に入ったことで全く違う花壇から伸びていた二つの蔦が偶然出会い、強く複雑に絡みついていたけれど、そろそろ各々が光を目指して別れを告げなくてはいけない。

 今のままだと二人とも、自分たちに纏わりつかれて逃れられなくなるから。




 ……わたしが新しく描いたあの大きな絵の題名は、『新たな旅立ち』


 わたしと、莉凜が、これからは別々の方向へと進んでいく姿を描いた、わたしと莉凜にしか分からない、お互いのお互いに対する熱烈なラブレターと、明確に関係性を定めないままいつのまにか愛を育んでいた姿と、悲しみを抑えきれない別れと未練のメッセージが込められた世界で一枚だけの、わたしたちのためだけの特別な一枚だ。


 知らないうちに始まっていたわたしたちの初恋は、こうして終わりを告げた。

気付けば前話から一年以上が経っていました。

今回をもってこの作品で咲桜がメイン/語り手となるお話はおしまいです。

本当なら参加している企画の性質上、お嫁に出したキャラを自分の作品に肩入れさせすぎるのはよくないのですが、あまりに作者が咲桜を好きになりすぎたせいで重要すぎる立ち位置に置いてしまいました。そしてあまりに引っ掻き回しすぎて……。つかささん本当にごめんなさい。


これからは本来のカップリングである二人をメインに話を進めてい……けるといいのですが、ちゃんと自分自身に続きを書けよと言っておきます。

作者も他の方のキャラを頂いている以上きちんとハッピーエンドに持っていかないとなのですが。。

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