11.
パリ。
ブランドショップが立ち並ぶ小綺麗な通りの一角に、咲桜の個展会場はあった。
チラッと通りから中を覗けば、大勢のお客さんでいっぱいで大盛況のようだ。
裏の関係者用の扉から建物に入り、応接間に通される。
私はさっきからずっとドキドキしっぱなしなのに、咲桜は慣れた様子で堂々としていた。
「Bienvenue」
「Bonjour」
オーナーなのか、一番偉そう……というよりとても紳士的な雰囲気を纏った人が出てきて咲桜と握手を交わす。
その後私には理解できない会話を少しやり取りすると、咲桜が早々に席を立って私の手を引いて個展会場に足を向けた。
「お話はもういいの?」
「うん。どうせ社交辞令だし」
「……私達にとって社交辞令も大切なコミュニケーションなんだよ?」
「ふぅん」
社交界に足を踏み入れようものなら、そこは社交辞令と上っ面の会話しかないきみの悪い世界だ。
そこで負けてしまわないように私や良家の出身の子女達は教養や立ち振る舞いを身に着けさせられた……というより、お嬢様がそれなりに集まる星花でもそういうカリキュラムがあったはずだけれど、どうやら咲桜は覚えてないし興味もないみたい。
まあ、これが咲桜だし。
私が今まで通り、絵にしか興味がない彼女をこれからも支えてあげればいい……ん、だ、から…………。
咲桜に導かれて会場内を歩いていると、等間隔に飾られた絵に混じって一際存在感を放つ大きな絵が目に入った。
それはこの前、間違えて買ったと言っていた特大サイズのカンバスに描かれたシンプルな絵。
そう言えば咲桜がこの絵を描いているところ、いつも下書きばかりで、りんりん学校の準備で遅く帰った時にはいつも片付いてて見たことがなかった。
この絵を見た瞬間、私は何も考えられなくなってしまった。
…………。
……………………。
………………………………。
……あれ?
なんで、心が叫び声をあげているの……?
どうして、私は泣きたがっているの……?
ただ、この絵をみただけなのに。
偶然、目に入ってしまっただけなのに。
なぜ、この絵が伝えようとしていることを分かってしまったんだろう?
……知りたくなかった。
でも、知ってしまった。
私は私のためにも、何より咲桜のためにも、きちんと前を見つめて歩いていかなくてはいけない。
そう、気づいてしまった。