10.
凛莉ちゃんのルームメイトである咲桜ちゃんから、直談判で凛莉ちゃんを奪われたときには思わず呆然としたわたしだったけれど、本気の目をしていた咲桜ちゃんを少し応援する気持ちが出てきていた。
主要メンバーが一人抜けてしまうのは正直厳しいのだけれど、もともと凛莉は事前をものすごく頑張ってくれてたから、当日の仕事をあんまり入れていなかった。
それを考えると、そこまで痛手じゃなかったし、むしろ仕事熱心な彼女をどう休ませようか考えていたから丁度よかったのかもしれない。
「凛莉ちゃん、後輩との関係も噂されてるし……大丈夫かしら?」
もしかして三角関係? なんてくだらないことを考えながら、わたしもりんりん学校に備えて準備を進めるのであった。
そう言えば姫奏がちょっと顔出すわね。なんて言っていたから、折角だしわたしたちも会う時間が取れたらいいなぁ。
ちょっと飲み物を買いに行こうと席を立ったその瞬間。
バァン!!
「邪神ユースティティア、見参!!」
「莉那先輩、静かに入ってきてください」
「ごめんね」
開け放たれた会長室の扉を静かに閉め直すと、応対用のソファに寝転んだ莉那先輩。
いつものことだけれど一応元風紀委員長なんだから、しっかりてほしい。
中等部の役員を上手くまとめあげていると言っても過言ではない、纐纈すみれちゃんはどうやら先輩の事が苦手みたいだ。
さっき莉那先輩が開け放った扉の隙間からも、引き攣った表情で固まっている彼女の姿が見えたし。
「後輩をあんまり怖がらせないでくださいね」
「そんなつもりがないのはよく知ってるでしょう? 勝手に避けられてるだけだから苦労するんだよ」
どうやら最近、学校でもプライベートでも姫奏を通じて先輩との付き合いが増えたことで、少しずつ信頼してもらえているらしい。ちょっと素の先輩を見せてくれるようになっていた。
「それで、どうしたんですか?」
「姫奏さんから清歌ちゃんを手伝ってって頼まれた」
「えっ……、姫奏が?」
「うん。今の時期が一番大変だろうけど、清歌ちゃんなら他の部員に言わないで溜め込もうとするんじゃないかって」
悔しいけど、正解だ。
本当は姫奏に手伝ってほしかった気持ちはあるけれど、大学生になって更に忙しそうにしてる彼女に求めすぎるのは最近控えている。
「……じゃあなんで目を瞑って寝ようとしてるんですか」
「うっ……! ちょっと、その〜勉強が大変で、ね?」
「莉那先輩、内部進学じゃないですか」
「うぐっ!」
姫奏と仲のいい彼女の事は、よく姫奏から話を聞いている。
「まあいいですよ。少し休んだら手伝ってくださいね。先輩も知ってるでしょう、忙しい時期だって」
「もちろんだよ。……おやふみぃ」
はやっ!
まぁ、先輩も進路が決まって、委員会も引退したことで社交界に少しずつ顔を出しているらしい。
もちろん社交界でも邪神ユースティティアは健在! ……なんてことはなく、無理矢理お嬢様を作っているようでその重圧から開放される学校や家では邪神と素とお嬢様が混じって不安定な状態だと聞いた。
だったら、少しくらい他の人の目が無いところで休んでほしいな……と思ったので、毛布をそっとかけると先輩が起きてくるまでそっとしておく事にしたのであった。