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09.

「リリ、出かけるよ」


 りんりん学校の前日、持っていく荷物を全てちっちゃなスーツケースに詰め終え、後は当日を迎えるだけ……というタイミングで咲桜にそれを奪われた。


「えっ、えっ、出かけるってどこに? 私の荷物をなんで持ってるの?」

「いいから」

「でも私、明日からりんりん学校がーー」


 と言いながらあわてて手を伸ばしかけたところで、ピシャリと叩きつけられた強い言葉に私は素直に従った。


「いいから付いてきなさい、西園寺凛莉!」

「……はい」


 ちょっとドキッとしたのは秘密だけれど、それよりも困惑のほうが大きかった。

 明日、どうしよっか。



 * * *



 寮から連れ出され、いつの間にか出されていた受領印の押された外泊届を渡されたまま校門の目の前で待っていた車に乗せられ、一路辿り着いた場所は車で数時間走った場所にある大きな国際空港。


 車を運転していた女性から私のパスポートと私名義のチケットを渡され、気付いたときには空の上にいた。


 アナウンスによると、どうやら私はフランスのパリに向かっているらしい。


「はっ!!」

「リリー、大丈夫? さっきから生返事ばかりだけど。もしかして酔った?」

「い、いや……あまりの出来事に呆然としてただけ。……なんで私飛行機乗ってるの? 咲桜の隣の方は誰?」


 矢継ぎ早に質問を飛ばす。落ち着いてと言いたそうに上下にひらひらと振られる手を見て我に返ると、咲桜の方を静かに見つめる。


「ごめん」

「ううん、急に連れ出したのはわたしだからね。いま私たちは、わたしの個展が開かれるパリに向かってるの。丁度新しい作品も出来たからね」

「個展……」

「そう。で、隣にいるのがお母さん。マネージャーみたいな事をしてくれてる。わたし一人じゃ何もできないからね」


 咲桜のお母様!?

 どうしよう、ご挨拶しなきゃだよね。あわわ……。


「あっ、あの、はじめまして! 西園寺凛莉です」

「はじめまして。咲桜がいつも本当にお世話になってます。いつもこの娘と話しているとあなたの事ばかり話してくれるのよ?」

「お母さん!」

「まあまあ。本当の事だし、ね? いつも娘を助けてくれてありがとう。これからもよろしくお願いしますね」

「はい。よろしくお願いします」


 ふぅ……。

 なんとか失礼の無いようにはご挨拶出来たかな。

 その後お母様は私たちの話の邪魔をしないためか、席を立ってどこかに歩き去ってしまった。


「それで、向こうに行くのに私をなんで連れてきたの?」

「リリに白黒ハッキリしてもらうためかな」

「……どういうこと?」

「このままだとわたしはリリーの事を離せなくなる。そうなる前に、リリーに選んでほしい。わたしをとるか、あの娘を選ぶか」


 咲桜の言っていることがよく分からない。

 あの娘って……きっとマントの娘のことだろう。


「……それを、どうして咲桜が結論を早めようとするの?」

「言ったでしょう? わたしがわたしの手の中にリリーを閉じ込めてしまう前に、リリーの気持ちを聞いておきたいの。わたしとリリーは相思相愛でいたいからね」


 つまりはわたしと付き合うか、捨てるかこの旅行中に選べってことね……。


「でも、なんで……」

「雪絵先輩は、今年三年生でしょう? リリーに捨てられたとなると、なるべく早めにくっついておきたいからね」

「そうだとしても、それを何で私に委ねるの……?」

「わたしにとって、西園寺凛莉は特別だから。それに、そろそろgrand-mèreが恋人を作れってうるさいから」


 グラン・メール……?


「おばあちゃんのこと。帰る度に言われてさ。嫌なんだよね」

「ちょ、ちょっと待って? 咲桜のおばあさまってフランスに住んでるの?」

「うん。あぁ、言ってなかったっけ? わたしのお母さんがフランスと日本のハーフで、わたしはフランスでちっちゃい頃暮らしてたんだよ」

「そ、それで咲桜ってそんなに肌白くて整った顔立ちしてるんだね」


 確かに欧米人の血が入っていると聞くと、日本人離れした容姿に納得がいく。


「ありがと。……grand-mèreが絵が好きでね。その影響でわたしも絵を描くようになって、今に至るというわけ。これでもフランス語は日常会話くらいなら不自由しないわ」


 書くのは難しいんだけどね。と続ける咲桜。

 そう言えば確かに咲桜が画家として活動している名前ってフランスっぽいし、展示とかオークションもフランスで行われることが多いからネット上ではフランス人なんじゃないか。という説もあるらしい。


「ともかく、うちはなかなか厳しい家だからね。さっさと自分で見つけないとよくわからない人とお見合いさせられたりするから。今年のうちに決めておきたいんだ」

「……それで私に選べと」

「そういうこと」


 さらっと告げられた割には、これから先の一生を左右するとんでもなく重い話。

 パリにいる数日の間に私は、どちらを選んでも辛い思いをする決断をしなくてはならないらしい。



カプ決めの時点で結果が分かってて上手く持っていかないといけない中こんな展開にしてしまった自分が悪いのですが、めちゃくちゃ難しい流れにしてしまった……。

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