あるダンジョンダイバーのはなし
「最近、調子に乗ってない?」
ダンジョン探索を終えて、反省会中にヒーラーの小見 咲にとがめられる。
「……そんなことないと思うけど」
というか、結成1月未満の即席パーティで調子に乗ってどうするんですかね?
「ほとんど、モンスターにとどめ指さないし」
剣士の向居 佑樹も追従してくる。
「バッファーだからね」
とどめ指した方がマテリアの吸収効率良いから君達に譲ってんですけど?と言うか、俺は現段階の階層のモンスター狩ったくらいじゃ、レベル上がんないし。
「そのわりには前衛の回りうろちょろしてるときない?」
「収集品や宝箱にも一番先に物色するよな」
「有能でしょ?」
前衛のが崩れた時に臨時タンクやヒーラーやったりしてたし、盗賊スキルで罠見抜いたりしてたよ?
「まさか、私達に寄生しようとしてない?」
「そんなわけないじゃないですか、言い過ぎですよ?」
咲の言葉におどおどしながらも反抗したのは魔術師の片瀬 未来、この娘だけは毎回俺を庇ったりくれる。
いい娘だよな……これで陰で悪口とか言われたら……ヤバイむしろ爆笑するわ。テンプレ過ぎて。
「ははは……まさか」
いくら、注目の新チームとか言われて雑誌に載ったり、取材を受けたりしても、まだまだダンジョン25階までしか到達してないパーティに寄生してどうするのさ、一応、ソロでも80階のボスくらいは行けるよ?俺……
つうか、皆、俺は臨時メンバーで、メインパーティがあるの知ってるでしょ?
「これじゃ反省会にならないな……」
と、俺を見ながらため息をつくのはリーダーで槍術士の水野 駿一
「まぁまぁ、今日は解散ってことで」
心配そうな魔術師とおまえが言うな的な眼をしてる3名を尻目に反省会を終わらせる。
★
「という訳で、また面倒くさい事になりそうだよ……」
「いや、戻ってきなよ」
ダンジョンにメインパーティの風見 将暉と二人で潜りながら報告すると、将暉は呆れながらにそうこぼす。
昨日ダンジョンから帰還したばかりなのに、翌日また潜るとか、ダンジョンダイブジャンキーみたいじゃんか
あれ?ダンジョンダイブジャンキーみたいじゃんかって早口言葉みたいじゃね?
ダンジョンダイブジャンキーみたいじゃんかダンジョンダイブジャンキーみたいじゃんかダンジョンダイブジャンキーみたいじゃんか……
「馬鹿なこと考えてない?」
「信用ないなぁ……」
考えるわけないじゃないですか。
「でも、あのパーティ追い出されたらさ」
「うん?」
「追放もの主人公みたいじゃん?」
「いや、自分の能力ちゃんと研究してて、仲間にもちゃんとさせてるでしょ?」
「一応、それだけは頼み込んでる」
あと、帳簿つけと領収書類の保管も……
冒険者って事業所得らしいよ?雑所得よりましかな?登録所で事業開始系の手続きはしてくれるみたい……白だけど。
青の開始手続きは自分でしろとさ……
……いや、青くしても、知らんの一言で無申告やらかして延滞税やら加算税やら食らって白になるのが冒険者破産ですからな。
しかも3年経つと消費税もね……
てか、国営の買い取り所で課税所得把握されてんのに逃げられるつもりなのかな?
有名なダンジョンダイバーの6割が税金滞納の前科持ちらしい……日本はファンタジーにすら世知辛いね……
叔父が税理士で学生時代に事務所でバイトさせてくれて助かった……顧問料割安にしてくれたし。
「なら、気付かずに~系はできないね」
「……命と生活掛かってるのにパーティで出来ることと出来ない事の見極めしないとか不安でしょうがないじゃん」
「だね」
「じゃあ、覚醒系で」
「……そもそもメインパーティは出ていかせないよ?」
「……出ていく気ないし」
「よろしい」
満足そうに頷く、ウチのエースアタッカーさん。
「実際、戻ってもまだ暫くは停滞しそうだよな」
「それこそ、連携を調整しないと……」
「俺の『1パーティ5人まで入れられるのに3人しかいないのが問題、具体的には攻撃役魔術師とタンクが足りない』から説はいつ採用されるかね?」
「150階までは行けたんだから、今さら新しいメンバーつかまえてもね……」
ウチのパーティは物理アタッカーの将暉とバッファーの俺とヒーラーの3人しかいない。
お陰で、罠解除やら、タンクやらサブヒーラーやらを、兼任する忙しさよ……
「いや、150階のボス、物理攻撃ほとんど効かなかったよな?」
それで、魔術師の女の子をスカウトしてたら、ナンパしてると勘違いされてヒーラーに一服盛られるなんて事(未遂)があって、ほとぼりが冷めるまで距離をおく事になってるのは、外部には秘密だ……
誰だよ、錬金術士のスキルスクロールを複数見つけたからって、パーティ全員に使ったバッファーは……
……役に立つんだもん仕方ないよね。
因みに日本のダンジョンの最大到達階層は178階……3人で150階って頑張ってる方だと思う。100階越えは現役だと12パーティしかいなし……
「『ほとんど』だからね、全くじゃない」
「何で一回もクリアしてないのに縛りプレイしなきゃいかんの?」
「仲間にしても、育てないと無理だよね?」
「即戦力を求めると引き抜き疑惑が煩いからな」
録に育成をしないで即戦力を求めるのは日本人の悪い癖だと思うの……
「まさか、スカウトのためにあのパーティに?」
「いや、才能ありそうな新人でもいるかな?って登録所覗いてたら、リーダーに声かけられて、あとは成り行き」
「……バカなの?」
「失礼な」
将暉のため息を聞きながら、ダンジョンの50階を探索する。
結局、メインパーティに戻り150階のボスを3人で倒すことになるのはまだ、少し先の話だ。