逆説の「が」
アース騎士団長は「ふぅ」と、少し疲れたような顔になって、
「以上が帝国宰相からの和平の話なのですが……、が……、『が』です」
「『が』ですか? その『が』は、おそらく、逆説の『が』かと思うのですが、その言い方ですと、まだまだ問題がありそうですね」
「大問題ですよ。ヤツらさえいなければ、もっとスムーズに事が運ぶのですがね」
アース騎士団長は、語気を強めた。その「ヤツら」が誰なのか、想像は容易につく。
「つまり、アート公、ウェストゲート公、サムストック公から派遣された騎士団です。彼らをどうにかしないことには、和平の話どころではなくなってしまうのです」
アース騎士団長は、ガントレットに包まれた右手を強く握りしめ、同時に「ふぅ~」と、やや長いため息をついた。ひと言で表現すれば、対応に苦慮しているといったところだろう。
ちなみに、騎士団長の説明によれば、三匹のぶたさん(アート公、ウェストゲート公、サムストック公)から派遣された騎士団は、「君命及び義によって参戦し、助太刀つかまつる」とドラゴニアに居座り、マーチャント商会が攻めてこない間は暇を持て余して傍若無人・好き勝手を繰り返し、御曹司が座敷牢(地下牢)に押し込められてからは、これまでのようなあからさまな態度は取らなくなったものの、「騎士の間に上下はなく、ゆえにアース騎士団長の指示は受けない」と公言して、ドラゴニアの騎士団との間の緊張や軋轢が依然として続いているという。
ただ、帝国宰相の「和平の話」を受け入れるとすれば、部外者とも言える三匹のぶたさんの騎士団にのさばられるのは不都合だろう。ちなみに、アース騎士団長もこのことは承知しており、彼らには再三にわたりドラゴニア領外への退去を求めているが、彼らは「君命を帯び、また、義によってドラゴニアに足を踏み入れた以上、なんらかの手柄を立てなければ、国に帰って主君に合わせる顔がない」と、まったく応じる気配がなく、結果的に、ドラゴニアン・ハート城内には三匹のぶたさんの騎士団の幹部とその直属部隊が数十人、その他ドラゴニア領内には三匹のぶたさんの騎士(及びその従者)2、3千人が、今も居座っているという。
わたしは「はは……」と苦笑しながら(言わば、笑うしかないという状況)、
「困りましたですね。こうなったら、いきなり最後の手段ですが、いっそのこと、闇討ちで一網打尽にしてしまってはいかがでしょうか。いざ合戦となっても、数的にも……」
そう言いかけたところ、アース騎士団長はやにわに顔色を変えて、「いけません!」と、手のひらを立ててわたしに向け、
「せっかくのウェルシー伯の御提案ですが、それだけは、お断りしたい。誇りあるドラゴニアの騎士として、あえて言わせていただくと、闇討ちのような『卑怯な』手段は、絶対に取り得ないのです」
「これは失礼しました。騎士としての誇りまで、思いが至らず……」
わたしはそう言いつつ、内心では、あきれ顔。証拠さえ残らなければ、闇討ちなのか正々堂々の会戦なのか、分からないと思うのだが……、ともかく、闇討ちはアース騎士団長の流儀ではないのだろう。




