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ザ☆旅行記ⅩⅠ ドラゴニア戦記  作者: 小宮登志子
第10章 再びドラゴニアに
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事態の収束に向けて

 わたしは、しかし、ここではまだスッキリとしないものを感じ、

「ちなみに、御曹司は、その『泣いてもらおう』ことについて、なんと?」

「いえ、わが君には、事前には知らせていません。我々騎士団の総意により実行に及んだわけですが、そもそも、主君に帰責事由ある失政というわけで……」

 アース騎士団長は、本当のところはこのことについて話したくないのか、ばつが悪そうに顔をしかめた。実際には、「泣ないてもらう」というより、「力ずくで泣かす」形となったのだろう。ともあれ、御曹司を座敷牢(地下牢)に押し込めた本来の理由が、帝国宰相の提案にあったとは、なんとも、コメントのしようがない。

「それで、帝国宰相の望むように、御曹司は地下牢に押し込め……いや、『蟄居』ですか、用語の問題はさておき、宰相の要求を受け入れることにしたというわけですね」

「そのとおりです。正直な話、我々ドラゴニア騎士団としても、わが君には愛想が尽きていたのです。帝国宰相の話は、言ってみれば『渡りに船』といったところでしょうか。宰相の望むグローリアスという人物をドラゴニア侯に推戴することにより八方が丸く治まるなら、それもよいのではないかというわけです」

「ということは、マーチャント商会との戦争も中止ですか? 戦争に勝って債務を帳消しにするのではなく、帝国政府による特別融資の制度なるものを利用すると?」

「そうです。より現実的に、ドラゴニアの再生のために何が必要かを考えてのことです。今まで黙っていましたが、こういうことは、なかなかオープンにできません。どうか、御理解いただきたい」


 わたしは「ふぅ~」と、大きく息を吐き出した。今アース騎士団長から聞かされたストーリーに沿って事が運ぶとすれば、ドラゴニアでは戦争は勃発せず、新たなドラゴニア侯としてローレンス・ダン・ランドル・グローリアスなる人物を迎えることにより、事態は収束に向かう流れとなるだろう。

 帝国宰相め、帝都で「ドラゴニア問題検討委員会」なる会議をもっともらしく立ち上げ、その裏で秘密裏にドラゴニアに帰順を促していたとは……、ドラゴニアに派遣されるという諸侯有志連合軍は、到着した途端に和睦の話になり、何も知らない(と思われる)ツンドラ侯やニューバーグ男爵こそ「好い面の皮」ということになろう。

 ここで、問題……、最も大きな問題は、ドラゴニアのワイン産地におけるわたしの権益が維持できるかどうかということ。先刻からのアース騎士団長の話によれば、「ドラゴニアにおける民事上・刑事上・私法上・公法上の一切の権利義務関係に関して現状変更はない」と念押しされたとのことなので、その話に従うならば、わたしがマーチャント商会への代位弁済によって取得した、土地の抵当権、ワインへの先取特権、ワイン産地への立入権等々についても、変更はないことになろう。一応、安心できるだろうか。

 仮に、今後、帝国政府がわたしに対して、代位弁済に要した費用を(利息も付けて)支払うという話になるとすれば、その場合、上記の諸々の利権は帝国政府に移ることになろう。でも、こういう取引であれば、正当な商行為と言えるだろう(不満はない)。

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