再び「大暗室」
アース騎士団長は、「大安室」のドアを開け、
「前回の御来訪の際と全く同じ部屋です。ウェルシー伯の趣味には合わないかも……、いや、きっと合わないのでしょうが、替わる部屋がなく、申し訳ない」
「いえ、お気遣いなさらず……」
わたしは思わず、「ふぅ」とため息をついた。部屋の中は、前回と同じく「大暗室」と呼ぶ方がふさわしいほど真っ暗で、何も見えない。でも、前回と「全く同じ」なら、この部屋の四方の壁には……
わたしは、プチドラを顔の前まで持ち上げ、
「こんなに真っ暗じゃ、仕方がないから…… イヤ過ぎるけど、頼むわ」
すると、プチドラは「あは……」と苦笑を漏らしつつ、すぐにブツブツと、何やら魔法の言葉をつぶやいた。すると、あ~ら不思議、部屋の天井付近には、バレーボールくらいの大きさの光の玉が数個、プカプカと浮かび上がり、パッと部屋の中が明るくなった。
すると、アース騎士団長は、「あっ!」と声を上げ、
「これが、隻眼の黒龍の魔法ですか! いやはや、なんとも……」
と、子犬サイズのプチドラを右から、左から、じっと見つめ、感心することしきり。今更のようだが、プチドラ(隻眼の黒龍)が魔法を使用する現場を目撃するのは、初めてなのだろう。
こうして大安室の中が明るくなると、見えてくるのは、前回と同じく、部屋の四方の壁に沿ってビッシリと並べられた、いわゆるひとつの美少女フィギュア。このようなものが何故にファンタジーの世界に存在するのか、一体誰がこのフィギュアを製作したのか等々、疑問が尽きることはないが、現に目の前にある事実は受け入れざるを得ない。
わたしは「ふぅ~」と、今度は大きくため息をついて、
「いつ見ても、これは、アレですね。もはや、なんとも形容しようのない……」
アース騎士団長は「ああ」と、額に手を当て、
「いやはや、なんとも面目ない。本来なら、わが君を先ほどの地下牢に蟄居いただいた時点で整理すべきだったのですが、何かと忙しくて、そこまで手が回らなかったのです」
ちなみに、アンジェラは前回と同様に、目を白黒させながら、右から左に、また、左から右にと周囲を見回している。
「とにかく……」
わたしは、ここで一つ、大きく深呼吸をして、
「ここは、ひとまず閑話休題と…… アース騎士団長、もし時間が許すならば、帝国宰相の提案に係る『和平の道』や、大男一人と中肉中背一人と小男一人の品のない三人組に関してなど、先ほどからの数々の疑問点につき、説明あるいは解説をいただければと思うのですが」
「そうでしたな、話が途中でした。ただ、話し出すと、長くなるからなぁ……」
アース騎士団長は、「う~ん」と腕を組み、しばらく、視線を部屋の天井にさまよわせながら考えた後、大安室のドアを閉め、
「分かりました。要点をかいつまんでお話ししましょう」




