地下牢の御曹司
わたしはプチドラを抱いて、足取りも軽やかに(ただし、一応、場所柄もあり、スキップを踏むようなことはなく)、二、三歩進み、
「なんだか楽しみ……ではなくて、ざまーみろ……でもない、何かしら」
「どうでもいいけど、あまり良い趣味とは言えないね」
と、プチドラは、あきれ顔で、わたしを見上げた。でも、繰り返し言おう、「他人の不幸は蜜の味」と。ただ、冷静に考えると、牢に入れられた御曹司の情けない姿を見たところで、それによって何か現実的な利得が生ずるわけではない。でも、時にはこういう遊び心も必要不可欠だろう……ということで、納得することにしよう。
わたしは、御曹司がいるという牢の前に来ると、じーっと、頭を少しだけ突き出すような前屈姿勢になって、その牢の中をのぞき込んだ。
すると、その牢からは、わたしが御曹司の姿を確認するよりも先に、
「おっ……、おまえはっ! インラン魔女めっ!! くそっ、このっ!!!」
と、御曹司の言葉が、速射砲のごとく投げつけられた。見ると、アロハシャツをさらにアロハにしたみたいな、なんとも言えない衣装をまとった御曹司が立ち上がり、(わたしがいる廊下側の)鉄格子に向かって駆けてこようとしていた。
わたしは、殊更に慇懃無礼を意識しつつ、
「あらら……、これは、妙なところでお会いしましたね。ドラゴニア侯におかれましては、本日も御機嫌うるわしく、ここは本当にアバンギャルドな執務室ですね」
「このっ、あばずれがっ! おまえさえいなければっ!! クソッ、クソッ!!!」
御曹司は激高し、両手で鉄格子を握り、大声でわめいている。この前に見たときと比べると、少し痩せたようにも見えるが、それなりに元気そうだ。衣服も、毎日着替えが用意されているのだろう、それなりに(センスは別として)清潔そうに見える。
「じゃあ、そういうことで」
わたしはくるりと向きを変え、意図的にゆっくりとした足取りで、アース騎士団長及びアンジェラのところに向かって歩き出した。後方からは、御曹司の罵詈雑言が、壊れたピッチングマシンのように次から次へと……、でも、相手にすることはない。
わたしは、アース騎士団長のところに戻ると、とりあえず愛想笑いを浮かべ、
「お待たせしました、騎士団長。用は済みました」
「そうでしたか。では、これから……、いや、もう一度と言うべきかな…… ともかく、宿泊していただく部屋まで案内します」
と、アース騎士団長は、何やら「やれやれ」といった表情。
アース騎士団長は再び、わたし(及びプチドラ)とアンジェラを案内し、ドラゴニアン・ハート城の廊下を進んだ。今回は、先ほどの三匹のぶたさん(アート公、ウェストゲート公、サムストック公)の騎士団のような邪魔が入ることもなく、しばらくして、「大安室」というネームプレートがはめ込まれたドアの前にたどり着いた。
「とりあえずは、ここでくつろいでいただくしか……」
アース騎士団長は、非常に申し訳なさそうな顔をして言った。




