御曹司はどこに
わたしは、思わず苦笑しつつ、
「やっぱり、そうでしたか。でも、どうして、彼らが、このドラゴニアン・ハート城の場内を闊歩しているのでしょうか。聞くところによれば、確か、アート公、ウェストゲート公、サムストック公の騎士団の傍若無人を容認していた御曹司は……」
と、わたしはここまで言いかけて、ふと言葉を止めた。そして、そのまま、数秒間か十数秒間、沈黙が続く。
アース騎士団長は、怪訝な表情をして首をかしげ、
「ウェルシー伯、わが君のことで、何か?」
「え~……、実は、風の便りに聞いたのですが、御曹司は、確か、数々の失政の責任を問われて座敷牢に押し込められたとか」
「はい、確かに、そのとおりですよ。まあ、なんと言いますか……、個人的な感情としては、彼の存在自体をなかったことにしてしまいたいですね」
アース騎士団長は、吐き捨てるように言った。
「では、ちょっと、つかぬこと……、別段、悪意も他意もないのですが、これから、御曹司のいわゆる御尊顔を拝み奉るわけにはいかないでしょうか?」
すると、アース騎士団長は、「えっ!?」と驚いて、
「わが君に会いたいのですか? 別段、支障はありませんが、今、わが君がいるのは、その座敷牢なのですよ。あまり高貴な人が来られるような場所では……」
「分かっています。ここは、是非とも!」
実は、先刻、わたしがふと言葉を止めた理由は、座敷牢に閉じ込められている御曹司の姿を見ておきたいという欲求が、ムクムクと心の中にわき上がったためなのだ。ただ、理性的に考えれば、今は、そういった欲求を満たすよりも、アース騎士団長から、先ほどの三人組の氏名や素性、現下におけるドラゴニアと三匹のぶたさん(アート公、ウェストゲート公、サムストック公)との関係など、ドラゴニア情勢の現状等を聞き出すのが先決。しかし、そうはいっても、やはり、自然の欲求にはあらがえないということもあって、不自然な間が開いたというわけ。「他人の不幸は蜜の味」とも言うが、せっかくドラゴニアまで出向いたのだから、御曹司の情けない姿を見て笑ってやるのも悪くないだろう。
アース騎士団長は腕を組み、「ふ~む……」と、しばらくの間、考えると、
「分かりました。ウェルシー伯がそれをお望みということでしたら、案内しましょう」
アース騎士団長は、向きを変え、今まで歩いてきた廊下を戻り始めた。わたしはプチドラを抱き、心細げな顔でわたしを見上げるアンジェラの手を引き、騎士団長に続く。
座敷牢のような、本質的にいかがわしい場所にアンジェラを連れて行くことには、多少のためらいもあるが、ほんの5分か10分、御曹司を見て笑ってやる分には、アンジェラに対しても、それほどの悪影響は及ぼさないだろう。むしろ、「悪いことをすればこうなる」という反面教師的な意味で、教育効果としてはポジティブな面もあるかもしれない。




