再びウエストゲートの町
隻眼の黒龍は、背中にクレアとわたしを乗せ、この前と同じように、まずは西に向かって飛んだ。眼下には、(現在戦争が行われていないという意味では)平和な大地がはるか遠くまで続いている。
その一方で、顔を上方に向けてみると、帝国の空は、非常に悪い意味で御都合主義的にと言おうか、まるでアンジェラの内心あるいは今後の成り行きを象徴するかのように、どんよりと曇っていた。
わたしは「ふぅ」と、ため息を一つして、
「何も、今日、出発することはなかったしら。この空模様だと、もしかしたらそのうち、雨が降ってくるかもしれないわ」
すると、わたしのすぐ前で隻眼の黒龍にまたがっていたアンジェラが、非常に小さい声で、
「でも…… それだけで済むのでしょうか」
「えっ? 『それだけ』って、どういう意味??」
「つまり、その…… もしかしたら、大雨に加えて、例えば、雷に打たれるかも……」
わたしは唖然として、思わず目を大きく見開き、
「一応、可能性としては、絶無とは言えないけどね」
アンジェラの、アメリアを失った(と完全に決まったわけではないが)ことによる、いわゆる心の傷は、かなりの重傷のようだ。わたしには、単に、天然ボケ・ツッコミの漫才あるいはコントで無意味にバカ騒ぎしているだけにしか見えなかったけど、思いの外、ふたりの間には、他人にはうかがい知ることのできない強い絆が存在していたのかもしれない。
ともあれ、結論的に言うと、この時は、わたしの幸運あるいは悪運が勝利したのか、雨に降られることはなかった。
そして、数日後、今回も前回の旅と同様、左右に連なる山々の間を飛行中に、隻眼の黒龍は、頭をグイと下げて地上を見回し、
「マスター、ようやくウェストゲート公の領地までやって来たみたいだね」
さらに、飛行をしばらく続けると、前方の山々の間に小さな町が見えた。これは(前回の旅の際の隻眼の黒龍の説明によれば)、地域防衛の要として、豚さんトリオのうち一匹が配されたウェストゲートの町に違いない。
わたしは、ふと思い立って、隻眼の黒龍の背中をツンツンと指で突っつき、
「ねえ、プチドラ、せっかくだから、この町を焼き払っちゃいましょう。今後は『今は廃墟のトンカツ町』に改称するのよ」
「そんな無茶な。いくら不条理が世の常だといっても、それはあり得ないよ」
隻眼の黒龍はマトモに取り合おうとしない。でも、わたし的には半分くらいマジだったりする。あわよくば、町を焼き燃え上がる炎が、アンジェラの心の中のモヤモヤもついでに焼き払ってくれることを期待しながら。ところが……
「お姉様、いけません。そんなことをしたら、たくさんの人が悲しい目に遭います」
アンジェラがダメ出しするのなら(しかも、泣き出しそうそうな顔で)、今回、過激な手段はやめておこう。




