再びドラゴニアに
そして、その翌日、屋敷の玄関先にて、わたしはプチドラを抱き、伝説のエルブンボウ等々の荷物の詰まった風呂敷包みを背負い、
「アンジェラ、そろそろ行くわよ。いい?」
「はい、お姉様……」
「ねえ、アンジェラ、あまり思い悩んでいても、思考がネガティブな方向に傾いていくだけよ。無理矢理元気を出す必要はないけどね」
「それは分かっているのですが、ただ……」
アンジェラは、うつむき加減に言った。アメリアが行方不明になって以降、アンジェラは、何事につけてもこんな調子で、常に心が晴れないようだ。
だから……というわけでは(そればかりが理由では)ないが、今回、アンジェラを連れて、再びドラゴニアまで出かけることにした。つまり、アンジェラのための気分転換の旅。完全にリフレッシュとならなくても、今までのように帝都の屋敷でこもっていることと比べれば、幾分、気分が晴れるのではないか。
パターソンは、アイタタタとお腹を押さえつつ(実は、彼は昨日もスヴォールの住居兼研究所に足を運び、何やらとんでもないものを口にねじ込まれたらしい)、
「カトリーナ様、本当にドラゴニアに行かれるのですか。もしかしたら、これから戦争が始まるかもしれないのですよ。考え直されるなら、今のうちかと……」
「一応、危険ではあるけどね。隻眼の黒龍がいれば、少なくともわたしたちの身の安全だけは確実に保障されるわ。それに、ドラゴニアのワイン産地に関しては、いろいろな意味で心配なところもあるし……」
ちなみに、昨日の「ドラゴニア問題検討委員会」で決まったことは、ドラゴニア侯(つまり、御曹司)への懲罰のみ。常識的には、いくら帝国宰相の権勢が強くても、宰相の一存によりマーチャント商会とわたしの間の私的な契約を無効化し、ワイン産地を強制収用することはできないだろう。ただ、相手は帝国宰相だから、もしかしたら何か……
また、ドラゴニアには、ツンドラ侯の軍団を中核とする諸侯有志連合軍の派遣が既に決まっている。仮にツンドラ侯自身が連合軍の総司令官となり、「単細胞」の本領を発揮した場合には、とんでもない災厄がもたらされるだろう。ドラゴニアがどうなろうと、わたしの関知するところではないが、戦乱によってワイン産地が荒れ果ててしまうのは、非常に困る。
もっとも、わたしが隻眼の黒龍を伴ってドラゴニアに赴いたところで、できることは(隻眼の黒龍による大々的な破壊活動を除けば)限られているだろうが……
わたしは、今日は特に雲が低く垂れ込めた帝都の空を見上げ、
「プチドラ、頼むわ」
すると、プチドラはコクリとうなずき、体を象のように大きく膨らませ、巨大なコウモリの翼を左右に広げた。左目が爛々と輝く。こうして、子犬サイズのプチドラから、たちまち、(こちらこそ本来の姿だけど)隻眼の黒龍モードに。そして、隻眼の黒龍は、わたしとアンジェラをその背中に乗せると、ゆっくりと大空に舞い上がった。




