そして恒例の……
「では、本日の会議は、これにて散会としたい」
帝国宰相が言った。そして、隣に座っている、非常に背の低いポッチャリとしたお坊ちゃん(ローレンス・ダン・ランドル・グローリアス)に、「帰ろう」あるいは「戻ろう」という意味だろう、目で合図を送った。
他方、ツンドラ侯は御機嫌に、ニューバーグ男爵の肩をバシバシとたたき、「戦争」だの「合戦」だの……、また、加えて、恐ろしいことに、「ゲテモン」だの、大きな声でわめいている。
わたしはプチドラと顔を見合わせ、ブルッと身震いした。今ここでツンドラ侯に捕まれば、間違いなく、ゲテモン屋で恐怖のフルコースに付き合わされることになるだろう。
「マスター……」
プチドラは、おののきながらわたしを見上げた。言いたいことは分かっている。
「そうね。一刻も早く、この場から逃げるのよ」
わたしはプチドラを抱き、立ち上がった」
ところが、プチドラは、小さい手を交差させて×印を作り、
「いや、マスター、そうじゃなくて……」
「えっ!? そうじゃないって……、じゃあ、なんなの???」
「今日の会議は訳の分からない形で終わってしまったけど、帝国宰相にフリーハンドを許すことになると、もしかしたらの可能性で、ドラゴニアのワインが危なくなるかも」
言われてみれば、確かに、会議で決まったことといえば、ドラゴニアに対して内政不行き届きを理由とする懲罰を行うこと、懲罰の具体的な方法は主催者側に一任することの2点のみ。形式論理的には、ドラゴニアのワイン産地に関するわたしの権益が保証されるかどうかは定かではない。
でも、ドラゴニアの権益は、わたしがマーチャント商会との契約(つまり、正当な商行為)の結果として手に入れたものだ。いくら帝国宰相とはいえ、一方的に契約を無効化することはできないのではないか。
プチドラは、ともかくもワインが心配なのだろう、目をうるうると潤ませて、
「マスター、念のためだけど、帝国宰相にドラゴニアのワインの保証を確認しないと……」
「そう言われても……」
わたしは、主催者側席に目をやった。帝国宰相は今まさに、ローレンス・ダン・ランドル・グローリアスと連れだって、会議室の出入り口のドアに向かって歩き出したところ。帝国宰相に確認するのであれば、もはや一刻の猶予も残っていない。
わたしは、「ふぅ~」とやや長めに息を吐き出し、
「仕方ないわね。こうなったら……」
と、プチドラを抱き、言わば、清水の舞台から飛び降りるような気合いもって、主催者側席に向かって駆けだした。
そして……
「うぉーい、ウェルシー伯! 今日は勝利の前祝いといこうぜ!!」
予想どおりと言おうか、わたしの目の前にツンドラ侯が立ちはだかった。




