会議の開始
ローレンス・ダン・ランドル・グローリアスという人物は、小さな体躯ながら、いかにもお坊ちゃん……、あえて悪く言ってみると、世間知らずのボンボンみたいな雰囲気を醸しつつ、見た感じは穏やかな表情を浮かべている。
プチドラは、そのグローリアスを遠くから見つめながら、
「マスター、この人、やっぱりどこかで見たような……」
「それは、そうでしょう。現に一度、至近距離ですれ違ってるはずよ」
「いや、そういう意味ではなくて……、つまり、そのグローリアス本人ではなく、彼が、別の誰かに似ているような気がするんだけど、その誰かが……」
プチドラは、「う~ん」と小さな腕を組み、その「誰か」と思い出そうと頑張っている様子。確かに、言われてみれば、そんな気もしないではないが、そもそもわたしの記憶力はまったく当てにならないし……
ともあれ、「う~ん」とうなっているプチドラを抱いて、席に座って待っていると、やがて、会議の参加者がぞろぞろと会議室に参集し、すべての席が埋まった。ちなみに、今日、最後に会議室に現れたのは、三匹のぶたさん(つまり、ウェストゲート公、アート公及びサムストック公)だった。
帝国宰相は、三匹のぶたさんが着席したことを確認すると、
「これで、関係者は全員そろったというわけじゃな。では、これより……(云々)……」
と、開会の辞だろう、(すなわち、一字一句を記載するのも面倒な)こういう場での決まり文句・定型的表現を述べ始めた。
ところが、どこにでも場の空気を読めない、いや、そんなこと気にもしない、そもそも行動を予測することが不可能な人もいるもので、
「何をまどろっこしいことを! 今日はドラゴニアへの侵攻作戦が議題だ!!」
ツンドラ侯は、いきなり立ち上がり、大声をあげた。そして、机をどんとたたき、
「侵攻作戦に異議のあるものはいるか? いないだろう。いないよな。いるはずがないな」
と、会議に出席したメンバーをギロリとにらみながら、自らの顔を右から左へと、半円を描くように動かした。
ツンドラ侯の隣では、帝国宰相が「ちっ」と舌打ちして天井を仰いでいる。しかし、侵攻作戦という方向性には間違いはないらしく、横から口を挟もうとしたり、ツンドラ侯の発言を訂正したりしようとはしない。
なお、本来的にはこの会議に出たくなかったニューバーグ男爵もまた天井を仰いでいるが、こちらは「ああ」と、気落ちして力の抜けた顔をしている。
会議に出席したメンバーは、にわかに気色ばんだツンドラ侯の勢いに気圧されたのか、おどおどして互いに顔を見合わせるだけで、意見を述べようとしたり、発言しようとする者は誰もいない。
ツンドラ侯はそれを見て、満足げに何度かうなずき、
「よしっ、異議なし! 決定だ!!」
と、大声を出しつつ、拳を振り上げた。




