大会議室の入り口にて
わたしはプチドラを抱き、魔法アカデミーの係員と思しき人に先導され、魔法アカデミーの中の迷路のような廊下を、あっちに行ったりこっちに来たりと歩き回り、やがて、「大会議室」というプレートのはめ込まれた大きなドアの前に到着した。ちなみに、今現在、ドアは大きく開け放たれている。
係員と思しき男は、恭しく頭を下げ、
「ここが大会議室、本日の会議の会場でございます」
「あら、そうなの。ありがとう」
と、わたしがプチドラを抱いて会議室の中に入ろうとすると……
「おっ、おおっ! そこにいるのは、ウェルシー伯ではないか!!」
わたしの背後から、聞き覚えのあると言うか、どちらかと言えば忘れたいけど忘れられないみたいな、言わずと知れた、あの人、ツンドラ侯の大きな声が響いた。
そして、ツンドラ侯に続き、
「ふぅ、ふぅ…… ウェルシー伯、御無沙汰しております」
と、これは、ツンドラ侯のいるところ、かなりの高確率で出現するニューバーグ男爵。
見たところ、二人とも、全力疾走で駆けてきたようだ(理由はまったく分からないし、尋ねる気にもならないが)。ツンドラ侯は額の汗をぬぐい、ニューバーグ男爵は、ぜぇぜぇと肩で息をしている。
ツンドラ侯は、何を思ったか、「よしっ!」と拳を握りしめて気合いを入れ、
「とにかく今日は大事な日らしいな。俺様には難しいことはさっぱり分からないが、あのドラゴニアのボンボンに引導を渡せるなら協力してやろう。ウェルシー伯よ、ともに闘おう」
と、ただひとり、後方を振り返ることもなく、まるで猛牛のように会議室に躍り込んだ。
一方、いかなる意味でも常識人のニューバーグ男爵は、「ふぅ」とため息をつき、
「困ったものですよ、本当に……」
男爵によれば、今日の「ドラゴニア問題検討委員会」には、本当は、来たくなかった(ツンドラ侯を来させたくなかった)という。実は、今日の会合に先立って水面下で(すなわち、わたしの関知しないところで)、ドラゴニアに対する諸侯有志(つまり、ツンドラ侯の軍団が中核となる)連合軍の派遣が既に決まっていて、残る実質的な問題は、連合軍の総大将を誰にするかだけらしい。
そのことを聞いたわたしは、「えっ!?」と、漫画的に目が点という状態。あのボケ老人(当然、帝国宰相のこと)め、今回はあまり冴えないと思っていたけど、なかなかどうして、やってくれるではないか。
ツンドラ侯領の財政を管理するニューバーグ男爵としては、軍団の編成と派遣には多額の費用を要するので、水面下での議論において「そういったことは絶対にやめてほしい」と、ツンドラ侯のみならず、帝国宰相にも猛烈な抗議・ダメ出し・異議申し立て等々を行ったが、聞き入れられなかった、具体的には、ツンドラ侯が帝国宰相に巧みにおだて上げられ、どうにもならなかったという。




