エイの切り身を人糞に漬け込んで発酵させた料理
次の日から、(人道上あるいは行きがかり上、止むを得ず)本格的なアメリアの捜索が始まった。といっても、実際には、わたしは屋敷の応接室で寝そべっているだけで、
「本日は市場の南側の地区を中心に、人員を増員して捜索を行いましたが、残念ながら……」
といった、パターソンの報告を適当に聞き流しながら、
「あら、そうなの、本当に、どこに行ってしまったのかしら。でも、明日こそはアメリアを発見できるように、各員一層奮励努力して頑張るのよ」
などと、我ながら心のこもっていない会話をパターソンと交わしていた。
一方、話し相手がいなくなったアンジェラは、突然ため息をついたり、急に無口になったり、不意に泣き出したりなど、感情がやや不安定になることが多くなった。なぐさめてみようと言葉をかけても、その度に「あ~」とか「う~」とか、心ここにあらずみたいな感じ。アンジェラにとって、アメリアの存在は、思いの外、大きかったようだ。
なお、アメリアの捜索により中止となっていたスヴォールの住居兼研究所の訪問については、翌々日、アメリアの捜索の「ついで」という形で行われた。
そして、夕方、蒼い顔をして屋敷に戻ってきたパターソンは、開口一番、
「ひどい目に遭いましたよ。オエップ……」
「どうしたの? まるで殺されかかったみたいな顔をしてるわ」
「いや、『みたいな』ではなくて、マジで殺されかかったのです」
パターソンの話によれば、(壊れかけた机と粗大ゴミ置き場から拾ってきたようなソファが置かれた)6畳ほどの小部屋に通されるなり、いきなり、「とりあえず、食え」と、とてつもなく「くさい」ものを口の中に押し込まれたという。
「なんなの? その、とてつもなく『くさい』ものって……」
「分かりません。私には、まるっきり見当もつきません。このような、なんとも言えないくらいに、なんとも形容しようがなく、なんとも意味不明なものは、生まれて初めてです」
その、とてつもなく「くさい」ものとは、スヴォールの説明によれば、「エイの切り身を人糞に漬け込んで発酵させた料理」だという。想像するだけで胸がムカムカとして、オエップ。悪食のツンドラ候ならともかく、マトモな人であるパターソンにとっては、かなり荷が勝ちすぎたようだ。
「それはそれとして…… 肝心の進み具合、研究の進捗状況は、どうだった?」
「スヴォール曰く『鋭意努力している』とのことですが、制御システムがどうのこうのと。理論的な話は私の理解の及ぶところではなかったのですが、結論的には、完成を急ぐため、もう少し研究費を上乗せしてほしいとのことです」
わたしは「ふぅ」と小さくため息をつき、
「仕方ないわね。必要だと言うだけ、くれてやりなさい。下手に値切って機嫌を損ねられて、研究打切りとかで、今まで払った分が無駄になっても困るし……」
「了解いたしました。明日にでも届けますが…… しかし……」
パターソンは口を押さえた。「エイの切り身を人糞に漬け込んで発酵させた料理」だっけ。わたしとしては、パターソンの消化器官が壊死、憤死又は爆死しないことを祈ろう。




