捕まえて、ボコボコにして、スマキにして、生き埋めにして
ニコラスは、更に情熱的に言葉を続け、
「我々、青年ドラゴニア党は、ウェルシー伯を新たなドラゴニア侯に迎えるべく、準備を進めているところです。是非とも前向きに考えていただきたい、我々の願いを聞き届けていただきたい!」
わたしは、あまり意味もなく「う~ん」と腕を組み、
「いきなりそんな大きな話を言われてもね。この場で即答というわけにはいかないわ」
すると、ニコラスはドンドンと、いかにも口惜しそうに地団駄を踏み、
「受けていただけないのですか。もし、今すぐ引き受けてくれるなら、父を出し抜くこともできるのです。明日のドラゴニアのため、是非!」
「えっ? 『父を出し抜く』って??」
わたしは思わずパターソンと顔を見合わせた。本当にタダでドラゴニアが手に入るなら、これ以上に素晴らしい提案はない。しかし、ニコラスが言う「父を出し抜く」が事実なら、今回のニコラスの来訪は、アース騎士団長の指示を受けたものではないと考えるのが論理の筋道だろう。加えて、ここにきて初めて、「青年ドラゴニア党」なる(怪しげな)固有名詞が飛び出したりもしている。こうなると、ニコラスの「新たなドラゴニア侯になってくれ」という申し出も、なんだか眉唾物のような気もしてくる。
ともあれ、わたしとパターソンがその場で(つまり、ニコラスの目の前で)ゴニョゴニョと内緒話的に協議したところの、その結論としては……
ニコラスの申し出に対しては、「非常に魅力的な提案であり、十分検討に値する。しかし、この事案は、個人と個人の約束ではなく、ドラゴニアの騎士団や領民に加え帝国政府等の関係者をも巻き込んだ重大な案件であるため、とりわけ慎重に対処しなければならない。したがって、帝国政府などの動静も勘案しつつ、ウェルシーにて重臣たちの意見も聞きながら、ただし、現下のドラゴニア情勢にもかんがみ、できるだけ早期に結論を得るようにする」と、とりあえずの(ある意味、回答になっていないような)回答を示しつつ、ニコラスには、「けっして、悪いようにはしない」ことを確約したうえで、今日のところはお引き取りを願うこととなった。
ニコラスは屋敷を出る際、しおれた花のようにションボリとして、
「そうですよね、やっぱり、そうですよね。即断即決というわけにいかないですよね」
「でも、前向きに検討するから、元気出しなさい」
我ながら、元気づけているのか、体よく追い返そうとしているのか、よく分からない言い方だけど、まあ、いいか……
ちなみに、ニコラスは、帝都に宿泊することなく、すぐにドラゴニアに戻るという。本当は、アート公、ウェストゲート公、サムストック公の屋敷に押しかけ、彼ら三匹のブタさんを「捕まえて、ボコボコにして、スマキにして、生き埋めにしてしまいたい」ということだけど、さすがにそれは穏やかではないだろう。




