青天の霹靂
わたしは、おもむろに「ゴホン」と咳払いをして気を落ち着かせ、
「でも、三匹のブタさん……つまり、アート公、ウェストゲート公、サムストック公の騎士団が、そんなムチャクチャなことをしてるなら、ドラゴニア侯がガツンと言ってやらないと。さすがに領主から禁止令でも出れば、大人しくなるんじゃない?」
「それが……、それがぁぁ」
ニコラスは顔をクシャクシャにして、目からポロポロと大粒の涙をこぼし始めた。彼のアクションが派手なのは今に始まったことではないが……、なんだか、見ているだけで疲労感が蓄積されそう気がする。わたしはパターソンと顔を見合わせ、例によって「ふぅ」とため息を一つ。
ともあれ、ニコラスの話によれば、ドラゴニア侯(つまり御曹司)は、アート公、ウェストゲート公、サムストック公の派遣した騎士団がドラゴニア領内に到着すると(全快とはいかないが)元気を取り戻し、政務を執り始めたという。ところが、その政務の内容は、いわゆる「ぶっちゃけた話」としてはムチャクチャで、むしろ「寝ていてくれる方がよかった」とのこと。
のみならず、御曹司は、三匹のブタさんを頼りに中央政界への復帰を目論んだのか、領内に「アート公、ウェストゲート公、サムストック公の恩義に報いることを最優先にすべし」という指示を出し、ニコラスの指摘に係るところの三匹のブタさんの騎士団の「傍若無人ぶり」を不問に付すとともに、「どんなことがあっても彼ら(つまり、三匹のブタさんの騎士団)に逆らってはならない」という命令まで出したものだから、ドラゴニアでは、ドラゴニア騎士団も領民も含め、領内全体に混乱が広がっているという。
ニコラスは、ここで、バックパックから、厳重に封がされた巻物を取り出し、
「というわけで、ウェルシー伯、これを御覧下さい!」
と、巻物の封を解き、机の上に広げた。わたしは(プチドラ及びパターソンも同様に)巻物に顔を近づけ、それをじっとのぞき込む。
すると、ニコラスは、誇らしげに胸を張り、
「これは、同志の誓約書です! 新しいドラゴニアを作るための……」
ところが、パターソンは、その巻物にサッと目を通すなり、すぐに立ち上がると、
「あっ、あの! 少々、お待ち願いたい!! これは、しかし、いくらなんでも!!!」
「何も驚かれることはありません。これは、実は、我々若き騎士たちの総意なのです。今のドラゴニア侯では、この難局を乗り切ることはできません。そこで、過去に二度までもマーチャント商会の大軍を打ち破ったウェルシー伯にドラゴニアをお譲りしたい、我々の君主となっていただきたいと、こういう意味です!」
ニコラスは、力強い口調で言った。
「はっ、はい???」
わたしは思わず、ポカンと(あるいは、直裁的な表現としては「だらしなく」)口を開けた。青天の霹靂とはこのことだろう。




