帝国宰相の狙い
わたしはパターソンに少し顔を近づけ、
「それで、『実は』の先は、なんなの? 面白い話??」
「いえ、面白くはないと思いますが、実は、今回の一件に関する情報収集を行いまして……、結論から申し上げますと、帝国宰相自身も、ドラゴニアの債務問題に密接な利害関係を有するようなのです」
「やっぱりね。そんな感じはしてたわ。その『利害関係』って、具体的にはどんな話?」
パターソンが帝都の駐在武官(親衛隊)の活動で得た情報(を取りまとめた結論)として説明するところによれば、「早い話、帝国宰相はマーチャント商会と結託して、ドラゴニアを「山分け」にすることを狙っていたようだ」とのこと。その方法としては、マーチャント商会への債務によってドラゴニアの財政を完全に破綻状態に追い込み、その財政破綻の責任をもって現在のドラゴニア侯(つまり御曹司)を解任し、帝国宰相が推薦する人物を新たにドラゴニア侯の位に就けるというもの。
なお、ドラゴニアは、その人物を新たなドラゴニア侯として推戴することにより、マーチャント商会に対する債務の免除等、財政上、特別の計らいを受けることができるとか(ただし、マーチャント商会に対する債務は、その「特別の計らい」により消滅することなく、ドラゴニアに代わり国家財政をもって支払われるので、マーチャント商会が損をすることはない)。
「つまり、言い換えれば、帝国宰相が国家財政を私物化して、ドラゴニアを買い取り、自分の推薦する人物に下げ渡すみたいな感じかしら。あの爺さんの考えそうなことだわ」
「有り体に言えば、そういうことです。ちなみに、その『推薦する人物』とは、現在のドラゴニア侯の遠縁でもあり、かつ、帝国宰相とも親類であるということですが、詳細につきましては、今のところ、確実な情報を得ていません」
わたしは「ふぅ」と息をはき出すと、応接室のソファに身を沈めた。帝国宰相もドラゴニアを狙っていたなら、この前の宮殿中庭における不可解な態度も説明がつく。宰相としては、ドラゴニアがマーチャント商会への債務の不払いを宣言するようなことになっては、当初の目論見が狂うため、わたしにドラゴニアへの介入を止めるよう迫ったのだ。なお、結果的に、わたしとマーチャント商会との間で妥協が成立した(ドラゴニアのワイン産地におけるマーチャント商会の権益を、わたしが譲受することになった)が、そのことも、帝国宰相にとっては計算外だったのだろう。
「しょうがないわね……」
わたしは、朝食兼昼食及び食後のデザートを食べ終えると、宮殿用のパリッとしたドレスに着替えるべくソファから立ち上がった。帝国宰相が(「今回は本気で怒って」)わたしを呼び出した理由は、パターソンが言うように、三匹のブタさんたちのドラゴニア救済諸侯大連合との絡み以外には考えにくい。ただ、帝国宰相がどんなに怒っていようと、わたしがその大連合に加盟したという証拠は存在しないはずだ。問題ないだろう、多分……




