帝国宰相「今回は本気で怒っておる」
その次の日、いつものように朝遅く(ほとんど昼前)に目を覚ましたわたしは、先に起きてラジオ体操をしていたプチドラを抱き上げ、寝ぼけ眼をこすりながら、おぼつかない足取りで応接室へ向かった。
「カトリーナ様、おはようございます」
応接室では、パターソンが、いつものように朝食兼昼食を用意して待っていた。そして、少し苦笑しながら、わたしの耳元に口を近づけ、
「目を覚まされたばかりで恐縮ですが、実は……」
「なんなの? 良くない知らせなら、無理に知らせてくれなくてもいいわよ」
「報告事項が幾つかございます。『無理に』というわけではないのですが、かといって、私限りで処理するわけにもいかないので……」
やれやれ……と、これは、わたしの内心の声。
パターソンによれば、話の一つは(まず、簡単なところから)、昨日わたしの屋敷に来訪したニコラスが、帝都での用事を終え、ドラゴニアへの帰途についたということ。ニコラスは朝早く、「発つ前に、ウェルシー伯に挨拶申し上げたい」と、屋敷に来訪したという。しかし、わたしが布団の中で熟睡していたので、パターソンに「ウェルシー伯によろしく」との言伝を残し、屋敷を離れたとか。そういう間の悪いときも、往々にして、あるものだろう。
ちなみに、パターソンが確認したところ、ニコラスは、今回限りの盟友と言える三匹のブタさんたちのところには、挨拶に行かなかったという。その理由は、要するに「彼らは虫が好かないのです」とのこと。確かに、気持ちは分かる。
そして、もう一つの話が、少々厄介な……、すなわち、帝国宰相絡みの話で、かいつまんで言えば、今朝方、帝国宰相の使者がバタバタと慌ただしくやって来て、「とにかくすぐに宮殿まで来られたし」ということ。その際、使者は結構な剣幕だったらしい。
わたしは、例によって「ふぅ~」とため息をつき、
「また、あの爺さんなのね。いい加減にしてほしいわ。なんだか分からないけど、とにかく鬱陶しいことに決まってるんだから」
「いえ、それが……、使者の方が何度も強調されていたのですが、帝国宰相は『今回は本気で怒っておる』とのことです」
「宰相が怒ってるのは今日に限ったことではないけど、使者はわざわざ、宰相が『本気で怒っておる』って言うために、屋敷まで来たの?」
「そのようです。これは想像ですが、帝国宰相は、アート公、ウェストゲート公、サムストック公の主導するドラゴニア救済諸侯大連合にカトリーナ様が加わるという話を、どこかで耳にされたのではないでしょうか」
わたしは、特段意味があるわけではないが、もう一つ「ふぅ~」と、大きく息をはき出し、
「一体、なんなのよ…… あの爺さん、この前も『平和を守るため』だとか、不可解なことを言って、今度は『本気で怒っておる』って……」
「その件に関してですが、カトリーナ様、実は……」
パターソンは、声を低くして言った。何か情報をつかんでいるのような雰囲気。




