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ザ☆旅行記ⅩⅠ ドラゴニア戦記  作者: 小宮登志子
第7章 錯綜と混迷
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ニコラスの来訪

 わたしは、ニコラスの突然の来訪に不意を打たれたと言うか……、彼の姿を前に、

「あらあら…… いらっしゃい、よく来たわね。元気?」

 と、われながら少々間の抜けた挨拶。

 一方、ニコラスは長旅の疲れも見せず、きびきびと、

「騎士団長である父の指示により、ドラゴニアの現状について、報告に参りました」

 ニコラスの報告によれば、現在、ドラゴニアでは、騎士団総勢2万旗(ただ、先代までドラゴニア侯に長く仕えていたプチドラによれば、実数は2万に届かないのではないかとのこと)の動員が完了、領内に駐在していたマーチャント商会の担当官を追放し、本社には債務の不払いを通告する正式な書状を送付しつつ、国境付近の警備を強化し、マーチャント商会がいつ何時攻撃を加えてきても対応できるよう、準備万端整えているという。

「そうなの…… じゃあ、マーチャント商会の動きは? もう、攻めてきた??」

「いえ、まだです。残念ながら」

 ニコラスは、ニッコリとして(なんの屈託もなくという表現が、正確だろう)、

「我々騎士団一同、マーチャント商会の攻撃を今か今かと待ち構えているのですが、今のところ平穏無事で、なんの変わりもありません。そう言えば、いずれアート公、ウェストゲート公、サムストック公の援軍が到着するとの話ですが、正直、彼らの援軍には、それほど期待してません。我々の邪魔だけはしないでほしいですね」

 三匹のブタさんの騎士団やドラゴニア救済諸侯大連合による援軍は、ドラゴニアでは、あまり歓迎されていないようだ。


 わたしは、ドラゴニア騎士団の心意気にちょっぴり感動しながら、

「そう言えば、あの人……、ドラゴニア侯は?」

 すると、ニコラスは「チッ」と舌打ちして、

「実は、わが主君は、あれ以来、引きこもっているのです」

 と、苦笑い。話によれば、この前に「話し合い」の場でマーチャント商会の使者をひとり斬り殺し、債務の不払いを議決した日以来、御曹司(ドラゴニア侯)は、自室に閉じこもったまま、出てこようとしないらしい。ドラゴニアの政務は、アース騎士団長を中心とした合議制で行っているとのこと。

 ちなみに、プチドラは小さな腕を組み、「やっぱり」と、うなずいている。御曹司とは、本質的に、そのような困った人なのだろう。

「では、私はこれで……」

 報告が終わると、ニコラスはひらりと身を翻し、颯爽と屋敷を去っていった。今日はドラゴニア侯の屋敷に宿泊するとのこと。


 パターソンは、ニコラスの姿が見えなくなると、わたしの耳元で何やら心細げに、

「でも、本当に、これでいいのでしょうか」

「いいも悪いも…… なるようにしか、ならないわ。ここは、腹をくくりましょう」

 わたしとマーチャント商会の間に妥協が成立していることは、ニコラスも、まだ知らないようだ。もっとも、わたし、マーチャント商会会長、帝国宰相の三者が口を閉ざしている限り、当該妥協が外部に漏れることはないだろうが……

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