二枚舌、三枚舌
パターソンは眉間にしわを寄せ、難しい顔をしながら、
「カトリーナ様、これまで大概の仰せには従ってきましたが、さすがに、二枚舌、三枚舌のごとく平然と、事実と異なることを告げるのは、いかがなものかと……」
なるほど、パターソンは常識人のようだ。でも、(少々下品だけど)あえて言おう、国際政治の世界においては、世間一般の常識など、屁にもならないということを。今回は、ドラゴニア騎士団、マーチャント商会と帝国宰相、三匹のブタさん(アート公、ウェストゲート公、サムストック公)向けに、それぞれ別の話・フィクション(言い換えれば、ウソ)を語ることとなるが、ウェルシーを富ませるためという大義名分により正当化することにしよう。
「そうね、道義的責任は免れないかもね。でも、今回は、ウェルシーの利益を思えばこそ、あえて冒険してみようということなの。早い話、わたしが例のドラゴニア救済諸侯大連合に関与している証拠がなければ、問題はないということでしょう」
「いえ、証拠があるとかないとか、そういうことは、本質的な事柄ではなく……」
「だから、三匹のブタさんたちが勝手に、わたしを味方にしたと勘違いして、戦争を始めたとしても、わたしとしては、一切、関係ない、この方針でいきましょう」
わたしは、なおもためらいを見せている常識人のパターソンをせき立て、「善は急げ」ではないが、三匹のブタさん(なお、幹事役はウェストゲート公で、次回のドラゴニア救済大連合の集会も、ウェストゲート公の屋敷で行われるらしい)のところに急がせた。
そして(同日、しかし、それなりの時間をおいて)……
「カトリーナ様、首尾よく事が運びました……、と言ってよいのでしょうか。一応、カトリーナ様の思惑どおりに進んだと見てよいと思います」
と、パターソンが複雑な表情をして戻ってきた。
「御苦労様、ブタさんたちに、怪しまれなかった?」
「いえ、それが、こちらが恐縮してしまうくらい、喜んでいただいたようで……」
パターソンによれば、ウェストゲート公の屋敷に出向いたところ、丁度、三匹のブタさんたちがその屋敷に勢揃いしており、パターソンには目通りは認められなかったものの、当方の用件を伝えることはできたとのこと。
取次役の使用人を介してパターソンに伝えられたところによれば、「アート公、ウェストゲート公、サムストック公とも、ウェルシー伯のたっての願いであるところの協力の申し出を大いに賞されるとともに、早速、ドラゴニアへの自らの騎士団の派遣を決定し、ドラゴニア侯を扶け、不倶戴天の仇敵であるマーチャント商会を討伐することを誓い合った」という。言葉遣いが少しおかしいのはさておき、こうもうまくいくと、どこかに落とし穴でもありそうで怖い気がするけど、三匹のブタさんのことだから、多分、額面どおりに受け取っておいてよいだろう。
そんなことがあって、しばらく……
ある日、甲冑に身を包んだ若い騎士が、屋敷の門をたたいた。
「ウェルシー伯に御注進したいことがあり、ドラゴニア騎士団ニコラス・ロバート・バーナード・アース、はるばるドラゴニアから参上いたしました!」




