常套手段
パターソンは、何か思うところがあるのか、ここで急に声のトーンを落とし、
「カトリーナ様はその会合には参加しないとのことですので安心したのですが、そもそも論と言いますか、今回のこの話、慎重にお考えになるべきものかと思います」
「『慎重に』って……、それは、どういう意味?」
「アート公、ウェストゲート公、サムストック公は、爵位こそ高いのですが、領地はさほどでもなく、そのため、自前の騎士団の規模は、ハッキリ言って小さいのです」
「つまり、あのブタさんたちは、早い話、ウェルシーの軍事力を当てにしてるってこと?」
「おそらく、そうです。これは、カトリーナ様がドラゴニア救済諸侯大連合に加盟したと仮定すればの話ですが、その後、要するに、勝ち馬に乗るべく大連合側に立って参戦するであろう諸侯の軍事力に対しても、期待を寄せていると考えられます」
わたしは、またも「ふぅ~」と大きく息をはき出し、
「あのブタさんたちのために働くなんて、絶対、あり得ないわ。それに、ワイン産地の関係でマーチャント商会会長との約束もあるし、ドラゴニアにウェルシーの軍団を大々的に送り込むなんて、できないでしょう」
「おっしゃるとおりです。でも、カトリーナ様、マーチャント商会との契約について、よく覚えていらっしゃいましたね。正直、意外……、いえ、これは失礼いたしました」
なんだか釈然としない言い方だけど、まあ、いいか。
わたしは、応接室のソファに深く体を沈み込ませてパターソンを見上げ、
「でも、そんなに期待されてるなら、無下にするわけにもいかないかしら」
すると、パターソンは、ギョッとした顔になって、
「えっ!? カトリーナ様、先ほどは参加しないと……」
「つまり、あの三匹のブタさんたちの誘いに乗るフリをして、何かうまく、つまり、ウェルシーにとって利益になるようなことは、できないかと思ってね」
「なるほど、そういう意味でしたか。でも、カトリーナ様もおっしゃいましたように、ウェルシーからドラゴニアに軍団を派遣することはできませんよ」
「そうよね。だから、うまい方法がないかと考えてるんだけど……」
わたしは「う~ん」と腕を組み、しばらくの間、心の中で「ああでもない、こうでもない、やっぱりそうでもない」などと思いを巡らせ……
「結論が出たわ。こうしましょう」
わたしはソファから立ち上がり、パターソンの耳元に口を近づけ、ゴニョゴニョゴニョ。ところが、パターソンの反応はイマイチで、「それは、いくらなんでも」と、少々渋い顔をしている。
ちなみに、その結論とは、次回のドラゴニア救済諸侯大連合の会合とやらに密使を送り、口頭で、「ウェルシーの騎士団がドラゴニアに向けて進軍を開始しつつある」と伝えるというもの。もちろん、本当に進軍するわけではない。三匹のブタさんが密使の言葉を真に受けて、ドラゴニアに自前の騎士団を派遣すれば、事態が更に錯綜し、儲け話みたいなことが出てくるかもしれないという、わたしにとって常套手段みたいなもの。




