のんべんだらりとした日々
スヴォールの住居兼研究所を訪問した日から、数日が過ぎた。その間、パターソンには、プチドラへのプレゼント用の帝国銘酒詰め合わせセットを買いに行かせたり(購入先は、少々口惜しいけれど、マーチャント商会)、お金をかき集めて研究資金としてスヴォールのところへ届けさせたりしながら、わたし自身は何をするともなしに、深夜に就寝して昼前に起きるという、のんびりと(言い換えれば、のんべんだらりと)した生活が続いていた。
「マスター、やっぱり、平和が……、いいねぇ…… うぃ~、ヒック……」
銘酒詰め合わせセットが届くと、プチドラは、早速、ラッパ飲みでゴクゴクと、かなり速いペースで銘酒を喉に流し込んだ。
「あなたのために、普段なら絶対に買わない高級なお酒を買ってきたのよ。そんなにすぐに飲んでしまわないで、もっと味わって飲みなさいよ」
「いいの。アルコール大王は、いつでもぉ、どこでもぉ、一気飲みぃぃぃ!」
わたしは思わず、「ふぅ」と小さく息をはき出した。こんなことなら、工業用アルコールを水で薄めてレモンで味付けするだけでもよかったかもしれない。
なお、アメリアとクレアの天然ボケ・ツッコミの漫才あるいはコントはいつものこと。
アメリアは、飲むペースが速すぎたためひっくり返っていびきをかいているプチドラを横目に、
「アンジェラさん、いけませんよ。世界の銘酒といっても、やはり、お酒はお酒です。お酒の中には、え~っと、メチルアルコールとか、エチルとか、チルチル、え~っと、あれ? とにかく、いろいろな猛毒が入っているのです」
一体、何を言いたいんだか……
この日も何をするともなく、応接室のソファに寝そべっていると、
「カトリーナ様、ちょっと……、いえ、ちょっとではありませんね、かなり厄介かつ困難な問題が持ち上がりましたもので……」
珍しく顔をしかめたパターソンが、片手に書類や巻物等々を抱え、応接室に入ってきた。
「どうしたの? 『厄介』とか『困難』って、なんのこと??」
「ドラゴニアのマーチャント商会への債務の関係なのですが、ひと言で表現するとすれば、事態がより複雑化してしまったということです。長い話になりますが、最初から、お聞きになります?」
「最初から聞かなければならないなら聞くけど……、その話の結論としては、どうなってるのかしら。とりあえず、結論を先に教えてよ」
すると、パターソンは書類や巻物を机の上に置き、やや苦笑交じりに、
「結論としましては、アート公、ウェストゲート公、サムストック公より、彼らの表現を借用すれば、『この上なくありがたい御招待なるゆえ、次回のドラゴニア救済諸侯大連合の会合には必ず参集すべし』との書状が届いています。でも、これだけでは、分からないと思いすよ」
わたしは「えっ!?」と、思わず目が点。アート公、ウェストゲート公、サムストック公といえば、(正直、思い出したくはないが)いつも宮殿で腹を突き出して、いかにも「私はエライ」という調子で、ふんぞり返って歩いてくる三匹のブタさんたちではないか。そのブタさんたちが、一体、わたしに何用だろう。




