とにかく、くさい
スヴォールが「ウキキ」と頭をかきむしり始めてから、2、3分が経過し、
「ウッキィーーー!!!」
突然、耳をつんざくような大音声とともに、スヴォールはピョンと高く跳ね上がった。そして、空中で一回転半、着地に失敗して地面に顔面を激しく打ちつけると、「ウキャキャキャキャ」と鼻血の流れる顔を押さえ、地面を転げ回った。非常に小柄で猿みたいなこの男、何をしたいのやら、サッパリ分からない。
スヴォールは、しかし、鼻血で顔の下半分を赤く染めながらも、すぐに起き上がり、ピョンピョンとパターソンのところまで走り寄ると、鼻血で汚れた両手でしっかりとパターソンの右手を握った。
「ウキキ! 考えがまとまった。そんなにオレの研究を援助したいなら、させてやるぞ!」
両手で頭をかきむしって何をしているのかと思ったら、単に考えをまとめていただけだったようだ。跳んだり跳ねたり鼻血を流したり、無意味にアクションの多いヤツ。性格的あるいは人格的に、ぶっ壊れているか逝っちまっているという評価は、確かに、そのとおりだろう。
スヴォールは荷物を拾い上げて、入り口のドアをこじ開け、
「ウキキ! ならば、中に入るがいい。詳しく、その話をしたまいやがれ!」
こうして、スヴォールの住居兼研究所に足を踏み入れることになったわけだが……
入るやいなや、わたしは「オエッ!」と顔をしかめた。とにかく、「くさい」の一語に尽きる。廊下の壁や床に一面に「くさや」が敷き詰められているのではないかと思うくらい。パターソンもここに来て、表面上は平静を装いながら、しかし、顔の筋肉を引きつらせている。
スヴォールは、もともと、こんなくさいところに住んでいるのだから、においなど気にならないのだろう。廊下を歩きながら、機嫌よく、マシンガンのような早口トークで、
「ウキキ! オレの研究に興味があるなんて、珍しいな。おまえら、バカだろ!! オレの研究を理解できる者は誰もいない。分かるのはオレだけだ。それに、金も出すのか?? やっぱり、バカヤロウだな、そうに決まってるぞ、ウキキキキ!!!」
「理解ができないのは、おっしゃるとおりです。しかし、とにかく素晴らしい研究をなさっているという話で……」
「素晴らしいだって? ウキキ! 確かに、素晴らしい。間違いない。オレが100%保障する。今現在の研究が完成すれば、この世界を○○○で満たすことだって、ウキキキキ!!(なお、○○○は筆者の自主規制)」
「ええ、素晴らしいお考えです。感動してしまいます」
「ウキキ! そうだ、もっと感動しろ!! ウキキキキ、オレを褒め称えるんだ!!!」
スヴォールの無意味なお喋りは延々と続いた。つき合わされている側にとっては、本当に、たまったものではない。
やがて、虫がわいた肉が吊されたドアの前までさしかかると、スヴォールは、その肉を無造作に放り投げてドアを開け、
「さあ、ゆっくり話を聞いてやるぞ、ウキキキキー!!!」




