ウキキの怪人物
トントン、トントン……
パターソンはドアをノックし、(いささか間の抜けた感もあるが)大きな声で、
「ごめんくださ~い!」
そして、待つこと約十数秒。しかし、反応は、まったくない。
パターソンは、今度はドンドンドンと力を入れてドアをノックし(むしろ「殴りつける」という表現が正確だろう)、再度呼びかけてみたが、同様に、建物の中からは、うんともすんとも返事がなかった。
わたしは鼻をつまみながら、エイヤとドアを蹴飛ばし、
「どうしたのかしら。錬金術師がここにいることは、間違いないのよね」
「はい。確かに、ここに住んでいるはずです。ただ、なにぶん急なことで、アポを取らずに来ましたので、もしかすると、折悪しく、外出中ということかもしれません」
「外出中なら、しょうがないわ。でも、一体、どこをほっつき歩いてるのかしら。こんな、悪臭プンプンの肥だめみたいなところで待たされるなんて、信じられないわ」
「ええ、まあ…… それは、確かに、おっしゃるとおりですが……」
すると、その時、不意に、背後からガラスを釘でひっかいたような声で、
「悪臭プンプンで、悪かったな! ウキキ!!」
振り返ってみると、そこには、牛乳瓶の底をくっつけたようなメガネをかけ、虫がわいてそうなボサボサの髪を振り乱し、汚れて真っ黒になった衣服をまとった、非常に背の低い、年齢不詳の怪人物が立っていた。中に何が入っているのか知らないが、重そうな荷物が入った大きな袋を左肩に背負っている。
「お前たち、何者だ? ウキキ! それとも、ナニか? このオレを、天才錬金術師、アレックス・スヴォールと知って、尋ねてきたのか?」
ウキキ、ウキキって……、ぶっちゃけ、耳障りなヤツ。それに、いきなり自分から「天才」を名乗るなんて、どこからどう見てもルンペンの分際で(高貴の生まれという噂はあるようだけど)自意識過剰ではないか。
しかし、パターソンは実にソツなく、模範的な対応と言おうか、愛想よく笑顔を作りながら、握手を求めて右腕を差し出した。
「アレックス・スヴォールさんとおっしゃるのですか。申し遅れましたが、私は、ジュリアン・レイ・パターソンと申しまして、実は……」
パターソンがここまで言うと、スヴォールは、突如、「ウキキー!!!」と、まるで音響兵器のような叫び声を上げ、
「無駄なお喋りは止めろ。時間の無駄だ! それよりも、早く用件を言え。オレは忙しい!! とにかく、非常に忙しいのだ!!!!」
「これは、失礼いたしました。結論から申し上げましょう。スヴォールさん、あなたの研究を援助したい、そして、その成果をお譲りいただきたい。以上が用件でございます」
すると、スヴォールは何を思ったか、突然、荷物を放り投げ、両手で髪の毛を掻き分けるように、「ウキキキキ」と頭をかきむしり始めた。一体、なんなんだか……




