無意味にド派手な男
屋敷の玄関先では、無意味にド派手な衣装を着た若い男と地味な衣服の初老の男が待ち構えていた。ド派手な若い男は御曹司に間違いない。以前に会った時よりも、趣味の悪さには一層磨きがかかったような気がする。その男の隣に立っている地味な初老の男は、御曹司に仕える執事だろう。
プチドラを抱いて馬車を降りると、御曹司は、絵に描いたような営業用スマイルで、
「おお、よくぞ参られた、ウェルシー伯! やはり、まさかの時の友こそ、真の友だ!! 先代の遺訓を胸に、ドラゴニアの発展のため、力を貸してもらいたい!!!」
と、宝石をちりばめた白い手袋をしたまま、やや躊躇するように右手を差し出した。
わたしは、しかし、その手を握ることはせず(誰しも、御曹司の手を握りたいとは思わないだろう)、適当に笑顔を返しながら、
「本日は、どうも…… でも、握手するには、まだ早いのではありませんか?」
御曹司は、一瞬、なんとも言えない(宇宙人にでも出会ったような)妙な表情を浮かべたが、すぐに気を取り直し、
「そうそう、確かにあなたの言うとおりだ。事がうまく運んでからでも遅くはない。とにかく、こちらへ」
と、わたしとパターソンを屋敷内に招き入れた。
わたしはプチドラを抱き、パターソンとともに、御曹司(及び執事であろう地味な初老の男)に続いて、暗い廊下をトコトコと歩いていく。大きな屋敷にもかかわらず、廊下に響く足音が気味悪く聞こえるくらいに、人の気配はない。普通なら、使用人が忙しく廊下を行ったり来たりしているはずだけど、削減しやすいところからコストカットされているようだ。
しばらく廊下を歩き、宝石や貴金属がふんだんに使用された大きなドアの前まで来ると、御曹司は何を思ったか、突然「えっへん」と胸を張り、
「この部屋は、例えば帝国宰相のように、非常に身分の高い、この上なく貴い方をお迎えするためのものなのだ。本来であれば、あなたのような……」
ここまで言いかけたところで、執事であろう地味な初老の男が、慌てて御曹司の袖口を引っ張り、何やらボソボソと耳打ちした。
御曹司はハッとしたように口をつぐむと、無理矢理、愛想笑いを作り直し、
「いやいや、なんでもない。そう、こちらのことだ。とにかく、さあ、中に入られよ」
と、大きなドアを開けた。大方、「本来であれば、あなたのような身分の人が入れるところではない」とでも、言いたかったのだろう。とはいえ、頼れる人はわたし以外にいないので、背に腹は代えられない、といったところか。あからさまな侮蔑だけど、腹が立つというよりも、むしろ、御曹司に憐憫の情さえ感じてしまう。
ちなみに、部屋の壁面や調度品はまばゆいばかりの金銀財宝に彩られ、部屋は贅を尽くした最高級スイートルームといった趣き。部屋の中央には、やはり、色とりどりの宝石や貴金属が散りばめられた特大のテーブルや椅子が置かれている。
御曹司はわたしとパターソンに椅子を勧めると、「ゴホン」と咳払いをしてわたしを見つめた。どうやら、これから本題らしい。