都合のよすぎる話
パターソンは「はい?」と、少々首をかしげ、
「カトリーナ様、その、『ちょっと』とおっしゃいますと?」
わたしはパターソンを捕まえ、その耳元でゴニョゴニョゴニョと……
「ドラゴニアでの紛争は回避されたわ。それはそれで万々歳だけど、わたし……いえ、ウェルシーの利益を最大化するために、ここで、もう一工夫しようかと思うのよ」
「『もう一工夫』ですか。それは、具体的には、どのようなことで?」
「それは、つまり…… 『具体的』なところは難しいんだけど……」
わたしは「え~っと」と、思わず口をつぐんだ。実は、「具体的」なことについては、まだ、あまり深く考えていなかったりする。
「とにかく、このまま平穏無事に終わっては、面白くない……、いえ、そうじゃなくて、今、ウェルシーがドラゴニアの防衛から事実上手を引いた以上、ドラゴニアはマーチャント商会の思いのままにされる可能性が高いでしょう」
「そうだと思います。でも、カトリーナ様、その代償として、ドラゴニアのワイン産地に係る権利をマーチャント商会から譲り受けたのでは?」
「それはそうなんだけどね。『もらうものだけもらって、後はどうなろうと知りません』では、ドラゴニアに対しては、少し薄情かな、とも思うから……」
「言われてみれば、そういう言い方もできるかもしれませんね」
「そうでしょう。だから、こう……」
わたしは、ここで少し間を置き(漠としたものだけど、一応、頭の中で考えをまとめ)、
「つまり、こっそりとドラゴニアを援助するのよ」
「ドラゴニアの援助ですか。ただ、ドラゴニアへは、10名以下の軍事顧問団の派遣しか認められないという話だそうですが……」
「だから、ここは頭の使いどころよ。10名以下で魔法使いはダメだとか、面倒な条件が付いてるけど、仮にその10名が、全員、ツンドラ侯みたいに、あるいはツンドラ侯以上に、文字どおり一騎当千、言い換えればバケモノみたいな剛の者ばかりだったら、どうかしら」
「現実には考えにくいですが、一人で軍団を一つ壊滅させることができるような、超人的な実力を備えている者が10人集まれば、戦力としては、かなりのものです」
「だから、パターソン、そういう、ものすごい知り合いみたいな……」
わたしは、そう言いかけて、ここで言葉を止めた。よく考えてみれば、そういう都合のよすぎる話が、そうそう転がっているものではない。
パターソンも呆れたのか、少々苦笑しながら、
「さすがに、そんな強烈な知り合いは、思い当たりません」
「やっぱり、そうよね。マンガじゃあるまいし、いくらなんでも……」
「ただ、そういう並外れた剛の者が御所望なら、まったく手はないわけではなく……」
「えっ!? それ、どういうこと?」
わたしは思わず、パターソンの胸ぐらをグイと捕まえた。もしかして、そんな都合のよすぎる話が、現にあるというのだろうか。




