基本的に契約は成立
数秒が経過すると、マーチャント商会会長は極めてメカニックに、かつ事務的な口調で、
「よかろう。その軍事顧問団とやらが、単なる社交儀礼程度に過ぎないという前提で、今後、詳細を詰めていこう。その前提が維持されることが、交渉継続の条件でもある」
「いいわ。本当に社交儀礼だから。基本的には、契約は合意と考えていいのね」
わたしは、ホッと胸を撫で下ろした。これで、とりあえずはドラゴニアのワイン産地を手に入れ、ドラゴニアを全面的に支援しているという名目で(できるのは、軍事顧問団の派遣まで)、少し苦しけど言い訳ができるだろう。ただ、本当のところ、内心では、軍事顧問団をもう少しうまく使えないか考えていたりもするのだが……
ともあれ、このような形で、この日の三者会談は終わった。帝国宰相は、いつも以上に不機嫌な顔をして宮殿の奥に姿を消し、マーチャント商会会長は、メカニックかつ無表情に会社の馬車で本社に戻り、わたしは、ドラゴニアの高級ワインを想像してよだれが止まらないプチドラを抱え、屋敷への帰りの馬車に乗った。
「えへへへへ……、ワイン、ワイン~、マスター、ありがとう!」
プチドラは、すっかり御機嫌になっている。
わたしは、「ふぅ」と小さく息を吐き出し、
「大したことじゃないわ。ただ、もしかして、ドラゴニアのワイン産地が予想外に馬鹿高くて、ウェルシーの予算規模を完全に上回ってたりしたら困るけど……」
「いやいや、それは絶対にない」
プチドラは、わたしの言葉を遮るようにして言った。話によれば、ドラゴニアのワイン産地は、ドラゴニアの中心都市ドラゴニアン・ハートから西に進んだところの山地に広がっているという。その産地一帯の土地の価値について、今後十数年で生産が見込まれるワインも込みで金銭評価してみると、プチドラ曰く「少々ウェルシーの宝石産業を頑張れば、さほど大変な思いをすることなく払える程度」とのこと。そのくらいなら、ミーの町にいるポット大臣に少し頑張ってもらおう。
ここで、契約書への調印は、まだしばらく先だけど、今回のマーチャント商会との合意内容について、簡単にまとめておこう。
1.ウェルシー伯は、マーチャント商会に対し、マーチャント商会のドラゴニアに対する債務の一部(ドラゴニアのワイン産地に係る権利に相当する額)を支払うこと。
2.ウェルシー伯は、上記債務の弁済により、法律上当然に、ドラゴニアへの債権(の一部)を承継し、その保全のため、ドラゴニアのワイン産地におけるマーチャント商会の権利(土地への抵当権、今後生産されるワインへの先取特権、ワイン産地への立入権、それら権利への侵害に対する防衛権等)を取得すること。
3.ウェルシー伯の代金支払い義務と、マーチャント商会のドラゴニアワイン産地に関する権利の登記の移転義務は、同時履行の関係に立つこと。
4.両当事者は、契約の履行の妨げとなる一切の行為を行わないこと。ただし、ウェルシー伯からドラゴニア騎士団に対する総勢10名以下の軍事顧問団(ヒューマンに限り、魔法を使用できる者が含まれていてはならない)の派遣は除く。




