熱心な平和主義者
わたしは、特に意味があるわけではないが、おもむろにニッコリと笑みを浮かべ、
「一つだけ、マーチャント商会会長には、直接的に、非常に重要なことを聞きたいのです。ウソ偽りなく、正直に答えてくれることを前提として」
「ほぉ、何かな? 多少くどい言い回しだが、もし、私がウソ偽りを言うように見えているなら、商人としては、非常に心外な話ということになる」
「能書きはいいわ。要するに、ウェルシーに派遣する軍団の規模を聞きたいだけよ」
すると、マーチャント商会会長……ではなく、帝国宰相は、ギョッとしたような顔になって、飛び上がるようにして、
「わが娘よ! おまえは、まだ、そのようなことを!!」
ところが、その一方で、問いを投げかけられたマーチャント商会会長は、眉一つ動かすことなく、
「軍団の規模は、必要に応じて定まるものだ。例えばの話だが、強大な敵に相対する場合には、当然、当社としても、北方から巨人を傭兵に雇い入れるなど、強力な戦力を用意する必要がある」
「じゃあ、例えば、強力なドラゴンと魔法使いの航空戦力が相手の場合は?」
「そのときは、当社もそれに対抗できる戦力を用意することとなるのだろうな」
マーチャント商会会長は相変わらず、メカニックに無表情なまま。ただ、彼の言葉を文字どおり受け取るとすれば、ドラゴニアの問題に関しては、障害は実力でもって排除するという方針を堅持するということで、その本気度は、かなり高そうな雰囲気。ならば、ここは、ウェルシーで戦争の準備を始めているところとはいえ……
わたしはもう一度、ニッコリと笑みを作り直し、
「帝国宰相もマーチャント商会会長も御存知のこととは思いますが、あえて申し上げますと、実は、わたし、熱心な平和主義者なのです」
すると、帝国宰相は、意表を突かれたのか、
「なっ、何!?」
と、口をポカンと大きく開けた。ちなみに、マーチャント商会会長は例によって、表情にも態度にも、まったく変化がない。
「今回のドラゴニアの問題、わたしとしましては、基本的に、ドラゴニアとマーチャント商会の話し合いで解決することに、依存はないのです。しかし、ただ……」
「『ただ』とは、なんじゃ? わが娘よ、一体、何を言いたいのじゃ??」
帝国宰相は、半ばうんざりしたような顔で言った。
わたしは一つ大きく息をして、少々気合いを入れ、
「わたしとしましては、今は亡き御隠居様が治めていらっしゃいましたドラゴニア、特にドラゴニアのワイン産地が、ドラゴニア騎士団とマーチャント商会の間の武力衝突の中で失われるようなことがあれば、いずれあの世で御隠居様に合わせる顔がないのです」
「じゃから、なんじゃ? わが娘よ、何を言いたいのか全然分からんぞ」
「つまり、ドラゴニアのワイン産地をいただけないかと。当然、合理的な対価であれば、お支払いします」
 




