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ザ☆旅行記ⅩⅠ ドラゴニア戦記  作者: 小宮登志子
第5章 宮殿の中庭
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帝国宰相の憤怒の形相

「『助力を惜しまない』とは、具体的には、どういうことかな」

 マーチャント商会会長は、しかし、極めてメカニックに、例えて言うと、音声読み上げソフトのような調子で言った。

 わたしとしても、会長に負けじというわけではないが、ポーカーフェースを意識しつつ、

「具体的には、つまり…… 御想像にお任せします」

 ところが、ここにきて大きな声を上げたのは、

「いい加減にせよ! むやみに年寄りを苛立たせるものではない!!」

 と、自らが高齢者たることを自覚しているのだろうか(今の言葉を素直に解すれば、当然、そうなる)、帝国宰相だった。

「わが娘よ、先ほども言ったであろう、ドラゴニアから手を引くのが、お互いのためじゃ!!!」

 ところが、他方、マーチャント商会会長は、まったく何事もなかったかのように、

「ウェルシー伯、あなたが本当に、帝国宰相が憂慮されているような事態を考えておられるとしたら、その場合はやむを得ませんな。当社としては、万難を排して、会社としての任務を遂行するだけですな」

 と、相変わらず、感情をどこかに置き忘れたような顔。そして、わたしに軽く一礼すると、帝国宰相の方に向き直り、

「見てのとおりでね。私も忙しいので、これにて失礼させてもらいたいですな」

 すると、帝国宰相は、両手で髪の毛を掻きむしるような仕草を見せ、

「待てぇーい! そう結論を急ぐでない!!」

 そして、憤怒の形相となって、ドンと……、ただ、さほど大きな音は出なかったが、力を込めて地面(中庭の石畳)を踏みならした。


 そして……

 しばらくの間(十秒か十数秒だろう)、沈黙の時間が流れた。わたしもマーチャント商会会長も、ひと言も発することなく、そのままの姿勢で、帝国宰相が何かを語るのを待っているという状況。ただ、これは、帝国宰相の迫力に圧されたわけではなく、なんとなく最初に口を開くのも間が悪いような気がしたから。

 帝国宰相は、「ふぅ~」と大きく息をすると、

「もう一度、冷静になって、よく考えるがいい。仮にドラゴニアが戦乱に巻き込まれるとすれば、如何に多くの無辜の民が苦しむことになることか!」

 と、再び口を開いた。今度は、いわゆる上位者が下位者を優しく諭すような口調になっている。聞いている側としては、なんだか非常に違和感があるが、今日の帝国宰相は、普段にも増しておかしいような気もしないではない(何か悪いものでも食べたのかという冗談が、冗談に聞こえなくなるくらいに)。帝国宰相としては、わたしのドラゴニアへの介入を、どうあっても阻止したいようだが……

 他方、プチドラは、先ほどから涙目でわたしを見上げている。ドラゴニアのワインを諦められないのだろう。ただ、事がドラゴニアのワインだけの話なら、交渉の余地は全くないわけではない。


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