ドラゴニア侯の屋敷
そして、次の日の夜、わたしはプチドラを抱き、パターソンとともに馬車に乗って、ドラゴニア侯の屋敷へと向かった。
ちなみに、出発の際、見送りに出たアメリアは「フレー、フレー」と、まるで熱血応援団のような派手なパフォーマンスを繰り広げ、
「気をつけてくださいね。帝都では、人さらいが流行しているということですから」
と、馬車の窓にグイと顔を近づけた。
「分かったから、アメリア、もう少し大人しくしてて。近所迷惑よ」
と、わたしは思わず閉口。ともあれ、(アメリアと同様に見送りに出ていた)アンジェラが、アメリアを引っ張って馬車から引きはがし、馬車がようやく屋敷から出たところで、
「まったく、なんと言いますか、彼女には……、かないませんな……」
パターソンも苦笑する以外なかった。
ドラゴニア侯の屋敷は、わたしの屋敷と同じく帝都の一等地にある。ただ、貴族としての地位の軽重の反映か、より宮殿の近くに位置していた。のみならす、ドラゴニア侯は、(帝国の「正史」によれば)建国の功臣の子孫であり、かつ、古くから(ごく最近に至るまで)帝国政治における中心的・キーパーソン的な地位を継承してきたため、屋敷の規模は、わたしの屋敷とは比べものにならないくらいに大きい。
プチドラはピョンとわたしの肩に飛び乗り、ドラゴニア侯の屋敷の外壁をしげしげと見つめながら、
「なんというか……、懐かしいなあ。この前に来たのは、いつだっただろう。何十年か前だったかな。あまりよく覚えていないなあ」
と、耳元で、何やらブツブツと感慨深げ。元々、プチドラ(隻眼の黒龍)は、帝国建国以来何百年も、代々のドラゴニア侯に使えていたということだから、この屋敷には、これまでも足を踏み入れたことがあるのだろう。
しばらくして、馬車が屋敷の正門前に到着すると、門がギィ~と大きな音を立て、ゆっくりと開いた。
パターソンは、緊張感のある顔をわたしに向け、
「いよいよですね。ドラゴニア侯が心の中でどのような陰謀を企んでいるのかは分かりませんが、くれぐれも、御油断なされぬよう」
わたしは、「分かったわ」とばかりに、無言でうなずく。
馬車は正門を抜け、ドラゴニア侯の屋敷の広大な前庭をゆっくりと進んでいった。馬車が通る石畳の通路の両脇には、美人をかたどった高価そうな大理石の彫像がいくつも並び、月明かりの中で艶めかしい容姿を映し出している。しかし、庭のあちこちには背の高い雑草が目につき、芝生も手入れされているとは言えなさそうな(大きな虫の死体が転がってたりする)状態。要するに、庭を美しく保つだけのお金がないということだろう。
やがて、馬車は屋敷の正面玄関に到達。そこには、ふたりの人影があった。