呼び出しは唐突に
マーチャント商会の使者を追い返してしばらくの間は、これから大戦争が始めるかもしれない割には、ほのぼのとした日々が続いた。
わたしは、毎度のことながら、昼前までぐっすりとベッドの中。なお、アメリアとアンジェラの天然ボケ・ツッコミは、毎日のように、手を変え品を変え続いている。
そして数日後、応接室でまだハッキリとしない意識の中、朝昼兼用食を口に運んでいると、
「カトリーナ様、食事の最中に失礼いたします」
入ってきたのは、いつもと同じような登場の仕方だけど、パターソンだった。
「どうしたの? マーチャント商会が、また何か言ってきた??」
「マーチャント商会ではありません。しかし、ある意味、彼らより厄介な存在ですね」
パターソンは苦笑している。で、その「厄介な存在」とは(パターソン曰く)……
「ずばり、帝国宰相です」
「えっ!? そうなの、じゃあ、仕方がないわね。いろんな意味で……」
こうなったら、わたしも笑うしかない。
「あの爺さん、今度は何用かしら。まさかとは思うけど、『なんの脈絡もなく重病に罹って、明日にもくたばっちまいそうなので、帝国宰相の座をわが娘に譲る』みたいな、うまい話じゃないわよね」
「まさか! あのご老人に限って、有り得ない話でしょう。用向きは分かりませんが……」
話によれば、今朝方、帝国宰相の使者がやって来て、「とにかく急いで宮殿まで来られたし」との宰相の言葉を伝えて戻っていったという。
「なんなのかしら。『とにかく急いで』って……」
「それは分かりませんが、今度は帝国宰相ですから、無視するわけにはいきません。」
「相手にしたくないけど…… 相手がアレだから、しょうがないわね」
わたしはパターソンに馬車を用意させ、宮殿用の一応パリッとした服装に着替えた。プチドラを抱いて玄関に出てみると、アメリアがひとりでバケツを叩き、「フレー、フレー」と鳴り物入りの応援団。なお、アンジェラは恥ずかしそうに、アメリアからやや離れたところから手を振っている。
パターソンは、「ははは」と、ばつが悪そうな顔をしながら、
「どうぞ、お気をつけて」
御者が軽く鞭を当てると、馬車は騒々しさに囲まれつつ、ゆっくりと動き出した。
馬車が屋敷を出たところで、わたしは「ふぅ~」とひと息、
「いつもながら、あのふたり……特にアメリアだけど、どこからあんな元気がわいてくるのかしら」
「分からないな。それよりも、帝国宰相が『とにかく急いで来い』って、どういうことだろう。いつものパターンなら、何かきっと、面倒なことを言いつけられる流れだけど……」
「急がせるのは時間がないからよ。年寄りだもの。ということは、やっぱり、あの爺さん、先は長くない?」
そんな話をプチドラとしているうちに、やがて、馬車は宮殿前に到達した。




